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タコの中からいるかがでてくる|ショートショート


何のためにあるのか。
いつも意味ばかりを考えてしまう。

自分のやりたいように。だとか、心の赴くままに。だとか言われても、それになんの意味があるのか。

また正しい答えを求めてしまうのだ。

今日もそうやって、もりもりと膨らんだ脳みそを持って、ビツ屋へ向かう。

「すみません。」

「ああ、きみかね。ずいぶん早いお出ましだね。前回来たのは…そうさな、半月前かね。」

「最近はもう、自分でもさっぱり。前なら削ぎ落とすこともできていたのですが。」

なに、うちはありがたいがね。と、店主は口の中で音を折りたたみ、しんがりはもらえない。

ここのビツ屋はお手頃価格だが、旧式のそれを使っているので、時間はかかる。

大きな頭を支えきれず、すこしよろつきながら、ふんにゃりと柔らかいソファーに腰掛ける。

目の前には鏡が置いてあり、僕の惨めな姿を映し出していた。

店主は手際良く、まな板の上に僕の頭を乗せて、大きな蛸壺のような器械を頭の中でもいちばん出っ張っている、左耳の上あたりに取り付けた。

なぜこんな惨めな姿を目に入れなければならないのだろう。この鏡に意味はあるのか。

などと考えていると、右耳の下あたりがボコボコと音を立て膨らむ。

「あのね。吸い取る先から増やしてはいけないよ。少しでも答えを求めるのはやめなさい。」

ぴりりと胡椒の声を出した店主は、蛸壺の底に当たる所から長く伸びた7本のホースを巧みに操って、それぞれ種類別に吸い取りを始めた。

先ほどのことがあったからか、心持ち暖かい声で、店主が聞く。

「今回は何を入れておこうか。

君はほら、海なんかが気になると言っていただろう。新しく入ってきたこれはどうだろう。」

親身になろうとしている空気をたっぷり腹に収めた僕は、ぜひそれで。と答えた。

ゴム製のそれはにゅるりとした肌触りで、ピンク色をしている。

僕の頭にさっきまで付いていた蛸壺のようだ。

その中にはさらにあぶらっぽいきいろのイルカが収まっている。

ピンクを押すときいろが膨らむ。
きいろを押すと、ピンクが膨らむ。

僕は大きく息を吐いて、こいつの意味の無さに安心する。


【あとがき】

タコですね。テープに支えてもらってます。
修理の面影が残る裏面
心もとないイルカが出てきます

ピンクできいろの蛸壺のやつは、娘がガチャガチャで回してきた実在するおもちゃです。

最初に見た時、なんじゃこれ意味無。と、思ったのですが、こいつをぷにぷにやってると楽しいわけです。 

すぐに壊れちゃったんですけど、娘に直してって言われて、直して、それでもまた壊れて、直して。

ほんとに意味ないやつなのに、大切にしてるのが面白くて、お話にしてみました。

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