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TAAC 『狂人なおもて往生をとぐ』観劇メモ

#TAAC 『狂人なおもて往生をとぐ』観劇。原作未履修。少し堅苦しい時代ものを見るつもりで構えていたら、微塵もそんな事なく。現代の日本にも通じる共感と狂気。進むにつれて序盤に放たれた言葉が繋がっていく時の、うわぁ!ってさせられる感じがたまらん。
まず感じる違和感は舞台セット。壁、椅子、そのどれも全てが見るからに傾いていて、白磁の壺がひとつ。次に電球1つに笑いが止まらなくなる父親、呆れる母親に、狂った長男、話を合わせる長女に、合わせきれない次男。そして唯一外からやってくる「常識を知らない」次男の許嫁。
序盤に空耳かな?というレベルの水滴が落ちる音が、話の展開とともにその音量と速度を加速させていく様は、それに気づいた途端に興奮と恐怖に変わる。スリラーやサスペンス映画で暗闇と光と、迫る音響効果に追い込まれるようなアレ。

「狂っている長男」に吸い寄せられて観ていると、ふとした瞬間、耐えきれないように長女が、そして最後に次男が一足飛びに狂気に落ちる。アフタートークで演出のタカイさんが天井からの雨漏りを受け取る器が最初1つだったのが、2つ、そして最後は3つになる。結果的に話の(3兄弟の)展開とリンクした、というような事、そして原作では「床に穴」とされていた設定を今回の舞台演出上は「天井からの雨漏り」としたとの発言に、うわぁ!そういえば、この人、穴芸人だったよ!!!(「人生がはじまらない」という作品にて、新宿シアタートップスの奈落の使い方に穴大喜利か!と感動した私が勝手に言っているだけで、卑猥な意味は一切ない。笑)と、頭を殴られたくらいの衝撃と感動。
会話の中で性的に過激な発言や一部表現もあったりするのに、忌避感なく見ていられるのは、衣装やヘアメイクの品の良さや清潔さがそうさせるのか、これもアフタートークで似たような事を言われていて、頭の整理が出来た部分。

最後に、子供達3人が壁に開いた扉(?…冒頭から長男の出入りに使われていた小さい扉に気を取られていたら、いきなり壁がズレて大きく開くもんだから、おお!って楽しくなってしまった。「GOOD BOY」のあの大きな本のような可動式の壁のセットも好きだったけど、これもなかなか。壁職人でもあったタカイさん…いや、大道具の方のお力ですね。流石すぎる)から光の中に笑顔で消えて、父親と母親は「いつも通り」を再開する。作中何度も感じた狂気がそこに残る。あんなにも子供達を苦しめたであろうこの2人も、日常を生きていくんだな…と、そこに恐ろしさを感じてしまうのは、後悔に苛まれなければおかしいのではという、私の常識の思い込みなのかは分からない。。。
消えた子供たちは死んだのか、家から出て行っただけなのか、アフタートークでゲストの横田さんから出た質問に、そこは今回明確に決めていないとの答え。ただ、家族という枠から「解放」されたのだという解釈。生き続ける限り、そんなことってあるのかなぁ…家族が亡くなったとして「解放」とは。「独立」とはまた違う感覚。それは家族という枠に、何を感じて何を求めるかによって受け取り方が変わってくるんだろう。終戦による価値観の変化、社会的立場、地位や名誉、家族の在り方、様々な枠に縛られて生きていく人間が、それらから解放される時、果たしてそれを幸せと呼ぶのか。
考え始めるとメルトダウンしてしまうのに、作中きちんと(?)コミカルな場面があるのもTAAC節。初見でしっかり見ようとするあまり声が出たりは少なくとも、くすくすとさせられる場面がちらほら。冒頭の電球で笑い転げる父親との姿は訳わからなくて思わず笑ってしまう。そこに隠されたものは、なんて考えずに笑えるのは初見のいい所。変なおっさんだな!って。笑

好きな役があったかと言えば、1番気になって目が引かれたのはもちろん長男の出(いずる)。そしてその次に愛まであってしまっていたのは、長女の愛子。そして話が進むごとに存在を無視できなくなってくるのが、次男の敬二。
あの部屋に来ると常に周りを気にして、狂った長男に変わってそこに立ち続ける姿が勇ましくも儚く、そして後半に吐露される思いに泣けてくる。その瞬間、次男の婚約者である恵の存在がより鮮明になって、眩しいとさえ思わされる。

アフタートークでは、前回戯曲原作「​the Dumb Waiter」で演じた俳優の横田龍儀さんと大野瑞生さんのお二人の、気になる事をその場で聞いて演出のタカイさんもなんでも答えてくれるスタイルで、なんとも解像度の高いひと時でした。大野さんの様に、何かしら自分と重ねながら見た人も多いだろうし、私もそうだなぁ…。
トークの終演を雨漏りの量で抑えるTAACおもろだったし、水溜まる壺覗き込んで「あと15分は行けます!」って宣言する大野さんも素敵だし、「いや、小さい花瓶無理だろ!」って即座にツッコミ入れる横田さんも最高でした。

「くつ下」の演出、同日に2回目の観劇だったお友達からヒントをいただいたので、次回は確認せねば。

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