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柿本多映句集『ひめむかし』より1句鑑賞と15句選

狐火を使ひ古して狐です  柿本多映

狐火の由来は、一説には狐が口から吐く火からだそうだ。

掲句は発想を逆転させ、あたかも、あなたが普段見ている狐はそのように成立しているんですよ…、と言われているようだ。

黄泉路の案内人が教えてくれる豆知識のような口調。

そもそも狐火は「使」うものなのだろうか?

私はいつのまにか多映ワールドに引き込まれている。

模糊とした虚をどこまでも使い古していくと、玉のような実が生れる。

そこには、現を超えたそこはかとない可笑しみが満ちている。

寝て覚めて菫が雲のあはひから

黄泉までは蹤いて来るなよなめくぢら

利き足を出してしまつて熟柿かな

鶴渡る主は脱臼してゐます

春昼の鐘撞いて鐘おどろかす

救急車降りてあやめの岸に立つ

桃の花姥捨山は宙に浮き

蟬の殻もらふ大きな雲の下

ドローン飛ぶ境界線のねこじやらし

葉牡丹や母よ母よと渦に入る

土筆摘む君は生者の顔をして

横列は恐ろしき列麦の秋

潜水艦の中の林檎が狙はれる

蛸になりたし万国旗をかかげ

氷魚食ぶコロナマスクをちよいとずらし

柿本多映句集『ひめむかし』(深夜叢書社)より


柿本多映さんが第65回毎日芸術賞を受賞されました。
おめでとうございます!!


※「コールサック113号」では柿本多映さんの特別インタビューが読めます。
こちらもぜひ。

「コールサック113号」特集1
関悦史が聞く 昭和・平成俳人の証言⑵
柿本多映―命の直観を書きとめる人―

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