【本】「急な「売れ」に備える作家のためのサバイバル読本」&【映画】「響」感想~「売れる=天国」ではない→具体例がみえるキャスティング最高な映画☆

「急な「売れ」に備える作家のためのサバイバル読本」に、現実をみた

 最近、色々なところで話題になっていて絶賛されている「急な「売れ」に備える作家のためのサバイバル読本」(朱野帰子)という本を買ってみた。最初に題名を見た時には、「私に「売れ」なんて無関係」とスルーしかけたけれど、感想を呟いている人達がそろって「自分に「売れ」なんて無関係だと思っていたけれど、読んでよかった」とオススメしていたので、「そうなのかなぁ?」と、少し気になった。
 「わたし、定時で帰ります。」(TBSドラマ)の原作小説(新潮社)を書いた作家さんの本だった。私は、当時ブラックに働いていて、ドラマを観てすごく身につまされ、原作も読んだ。ブラックな働き方を考えさせられた覚えがある。
 「わたし、定時で帰ります。」を書いた人の本なら、面白そうだ。さらに、電子書籍と紙の本を合わせて買っても、紙の本の送料込みでも、電子書籍だけ買う価格と同じ、というのも「早く買わないと紙の本はなくなってしまうのでは?」と思えて、ちょっと焦って買ってみた。
 結果~ちょっと読むつもりが…一気に読んでしまった。いい本だった。作者の「後進のために」という思いがあふれ出ていて、胸が熱くなった。
 確かに「売れ=天国」みたいに思っていたけれど、そうではない現実を突きつけられた。冷静に考えれば、そうだ。確かに。どんな職場だって、任された大きな仕事がうまくいったら「ごほうびに休んで」なんて言われることはなく、「仕事のごほうびは更なる大きな仕事」という状態になる。それが続く。そして麻痺していく。
 作家だって同じ…なのか。
 「売れ」にともなって起こるあれこれが、本当に、確かに、言われてみれば「ありそう」なことだらけで、すごく冷静になれた。
 「売れ」は夢物語じゃない。現実だ。
 「売れさえすれば…」みたいに「売れ」にあこがれるのは、危ういことなのだなぁ…と、冷や水を浴びせかけられるように気づかされた。そんな日が来ないとしても。心構えは、確かに必要だ。読んでよかった。

映画「響」に具体例をみた&キャスティング最高☆

 その後、今更ながらU-NEXTで観たのが映画「響」。平手友梨奈主演。全く期待せずに、「ちょっと眺めてみるか」くらいの気持ちで再生しはじめたのだけれど…ぐいぐい引き込まれて最後まで観てしまった。賞もとれず、売れないけれど書き続けている作家役の小栗旬も、いい。
 偶然だけれど、「急な「売れ」に備える作家のためのサバイバル読本」(朱野帰子)を読んだ後に観て、すごく理解が深まった気がした。
 芥川賞をとってから、作家というよりはワイドショーのコメンテーターのようになってしまっている鬼島仁(北村有起哉)。「賞をとってから、書きたいものなんてない。惰性で作家やっているだけだ」という言葉が、朱野帰子さんの本を読んだ後だと、しみる。強がっているけれど、この人は賞をとった後、「売れ」を乗り越えられずに書けなくなってしまった人なのかもしれない。切なくなる。
 一方、ずっと売れずに、でも作家を続けている山本春平(小栗旬)。天才作家、響(平手友梨奈)に「作家を続けられているということは、読者がいるということでしょう?」と言われるように、「続けられている」というだけですごいと思う。さらに、自分で小説を書きながら、自分の小説のラストに泣いてしまうほど、書きたいものがある。さらに、その小説を読んで同じように「ラストで泣いてしまった」と自分の作品をわかってくれる担当編集者にも恵まれている。賞こそとっていないが、売れてこそいないが、山本春平(小栗旬)は表現者としては恵まれているのではないか。もう自分は書きたいものもないのに作家を名乗って賞の選考委員をして若い才能に感嘆するだけの鬼島仁と、どちらが幸せなのか。そんなことも考えさせられた。
 この映画では、なんといっても主人公響が当時の平手友梨奈のイメージそのものであることがイイ。めちゃくちゃでハラハラさせられて、でも目を離せない…そんな主人公は、そのまま平手友梨奈と重なる。いい悪いではない。人を惹きつける引力がある。そんな暴力的な魅力だ。理屈ではない。冷静に考えるとツッコミどころはあるのだけれど…考えたくなくなる。
 そんな主人公はもちろん、主人公の女友達を演じるアヤカ・ウィルソンも、あてがきではないかと思うくらい、リアルに映画の中に存在していた(もちろん、原作マンガなので、あてがきなわけはないのだけれど(^^;)そのくらい役と俳優さんがピッタリだった、という意味で)。サイドストーリーのような小栗旬の贅沢な使い方もそうだが、すべての人が適材適所におさまっている感じがめちゃくちゃ心地よい。キャスティングすごい!と思った。プロデューサーの力なのか?観たいものが観れている感じ。すごく心地よい時間を過ごすことができた。

本と映画、組み合わせの妙

 偶然ではあるけれど、本と映画がうまくかみ合って、揺さぶられた。
 売れないより売れた方が幸せだろう。けど…映画「響」を観終わって、私が一番羨ましいと思えるのは、小栗旬演じる山本春平かなぁ。
 自分が書いている小説のラストに自分で涙しながら書き終えることができるなんて、しかも担当編集者にも自分が涙した部分と同じ部分で涙して作品を理解してもらえるなんて、なんて幸せなんだろう、と思う。暴力事件を起こしてばかりで作品の単行本化すらままならない響と違って、自分の本の単行本化や流通はできているから、数少ないとしても読者に届けることはできているし。芥川賞の最終選考に残るくらいには、自分の作品を認めてくれる人達にも恵まれているし。もちろん、賞はほしいとは思うだろうけれど、でも、「急な「売れ」に備える作家のためのサバイバル読本」を読んだ後に山本春平の姿をみると、彼が渇望している「受賞」とそれに伴う「売れ」が手に入ったとして、果たして彼が「売れ」に伴うあれこれを乗り越えて幸せになれるのだろうか?等と色々と考えさせられる。受賞までいかなかったとしても、芥川賞候補になるだけでもすごいことだし、伴走してくれる信頼できる担当編集者がいるというのも、ホント恵まれていると思うのだけれど…。

 とりとめなく書いてしまいました。本「急な「売れ」に備える作家のためのサバイバル読本」と映画「響」、思いがけず自分の中で共鳴したので、思わず感想を書いてみました。