読書感想「星に願いを、そして手を。」

夢というのは、ふわふわした、素敵なものなんかじゃない。(中略)大変なことばかりで、それが報われる保証なんてどこにもない。それでいて、いつまでも付きまとう。忘れられるのなら、それはきっと夢じゃない。(本文209頁より)

第二十九回小説すばる新人賞を受賞した、青羽悠さんの今作。

十六歳の若さで受賞した文章を読むのは、正直、抵抗がありました。

単純に言えば、嫉妬ですね。その気持ちは読み進めても変わらず、青羽さんの才能に圧倒されながらページをめくるのは、怖いもの見たさにも近いものがありました。

けれども、きっと青羽さんは才能と一言で表現していい作家ではないのかもしれないと気付かされました。

おそらくこの人は、今しか書けないこと、今この瞬間に残したい言葉を紡いでいるのだなと、そう感じました。

一度はバラバラになったかつての親友同士が、青春時代を過ごした科学館の閉館と館長の死によって再び集結し、止まっていた時が徐々に動き出す。そんな再生と成長を描いたこの物語には、作者がこれまでに生きてきて実感した等身大の思いと、これからに向けた願いが込められているような気がします。

十六という若さで書かれる等身大の思い。それが素直に綴られているからこそ、読者は何か忘れかけていた大切な物を、再び掴みかけるのかもしれないと、そんな風に思いました。

私事ですが、最近、公募用の中編小説を考えている途中、完全に煮詰まってしまい、上手くアイデアが浮かばずに項垂れていました。

ただ、今回この作品を読み終わり、もう一度原点に立ち返って、何を書こうか考え直してみようと引き締まる思いになりました。やっぱり、叶う叶わない以前に、夢は持ち続けたいですね。頑張ります。

それでは、またいつか。

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