PSVの2023年 振り返り①(チーム編)

22/23後半戦 シャビ・シモンスとファンニステルローイ

2022年の終わりは、大エース、コーディ・ガクポの心温まる、皆が彼に望んだ華やかな旅立ちの喜びと、取り残される寂しさを抱えた。

私はリバプールFCのファンであり、PSVのファンなので、彼がリバプールにやってきたことを(噂になっていた他のクラブは余計に苦労しそうだったのもあり)大変喜んだ。

彼がいなくなることは時間の問題だったし、夏にルーク・デヨングが帰還し、ヨングでの出場はもはや役不足となっていたホープのヨハン・バカヨコがトップでの台頭が期待され、何よりもここ数シーズンにわたって、ガクポと並ぶダブルエースのもうひとり、ノニ・マドゥエケが居るので問題なし、のはずだった。

爆発力で言えばガクポ以上のものをもつマドゥエケが牽引する新チーム最初の試合、ミラン相手にかつてのレジェンド、ロッベンのようなシュートを右サイドからのカットインぶち込んで快勝を飾ったことで、その希望は確信になった。

ところが、彼の母国から届いた、チェルシーの過大評価とも言えるオファーによりチームを去った。あのゴールは彼のPSVでの本当の始まりではなく、惜別のゴールとなってしまった。

怪我の絶えない彼がさらなる価値を持つ選手になれるか一抹の不安を抱いていた中での高額オファーであったため、PSVには大満足の移籍だと思うけれど、彼個人の今後を思えば実現前から最低の移籍になると自分は確信していたし、それが今のところ現実になったとしか言えない状態なのは素直に悲しい。

なぜ、もう半年PSVでプレーして箔をつけて去らなかったのか。惜しい思いが尽きない。

そんな両エース喪失で始まった2023年は、年明けで早々に大コケし、首位からどんどん離される展開。ファンニステルローイの進退が騒がれないのはレジェンドの特権などとメディアに嫌味を言われながら待つ冬の終わり、シーズンを制するフェイエノールトが苦境のたびにデカイプでドラマを起こしていく対照的な姿にタイトルレースの結末がなんとなく見え、いざ大勢を変えるぞと乗り込んだPSVもデカイプの魔力に屈し、2-0のリードを溶かして引き分けた時点でシーズンは決していた。

選手でいうと、W杯を経たシャビ・シモンスが、ガクポからボールやスペースをもらって好き勝手する韋駄天から脱し、チームの中心選手としてボールを集めるようになった。

250ccのストリートファイターのような加速と軽快な身のこなしを武器に、高速カウンターでスペースを突いたり、1vs1に勝っては左サイドでチャンスを作ったかと思えば、バイタルでボールを持ちゴラッソを連発。

この天才のおかげで、冬にチームが多くを失ったどころかこの選手を見られる喜びに没頭することとなった。

4月のアヤックスをホームに迎えたトッパーは彼のためのステージであった。勝負を決めるPKを沈め、3点目に至るドリブル突破とクロス、まさにエースの活躍。

しかし、彼に全幅の信頼を置いたファンニステルローイは、フロントからのバックアップの不足、信頼の欠如を理由にシーズン最終盤に電撃辞任。

PSVは次の3年を共に歩む上で中心に据えた指揮官、何よりも、PSGによる買い戻し条項の行使に対抗し、シモンスを長く留める上で最も重要な人物を失った。そして、程なく、半年で3人目のエースを失った。

22-23シーズンはKNVBベーカーの連覇、そしてCL予選の出場権を得て一定の成果を得たものの、新時代の幕開けどころか、かつてのレジェンドと共に歩む中長期計画が早々に頓挫し、仕切り直しを迫られた結末はほろ苦いものに。

23/24 再び、新時代の始まり

新監督にピーター・ボスを据え、再度のチーム再構築に取り掛かるPSV。CL本戦進出、そして躍進への意気込みを感じる夏の大補強を敢行。

ペピ、ノア・ラン、スハウテン、ロサーノを獲得し、さらに、バルセロナからデスト、バイエルンからティルマンがそれぞれレンタルで加入。サンガレは去ったものの、予想の範疇であり、良い夏を過ごす。

リーグは開幕からノア・ランとデストを有する左サイド、そして成長著しいバカヨコの大活躍でロケットスタート。中盤ではスハウテンが早々にフィットし、PSVの弱点であったコントローラー不在の問題をすんなり解決。攻撃的中盤はコンバートされたサイバリにレンタルのティルマン、奮起のティルが月替わりで活躍する好循環。

そんなチームで国内は向かうところ敵無しで連戦連勝。とはいえ、このスカッドなら当然というような、対戦相手に恵まれたカレンダーであった感も否めず、トッパーで実力があらわに。

そして、10月末に迎えたシーズン最初のトッパー。相手は史上最悪の大不振に陥っているアヤックス。試合内容はあまり褒められないながら、決めるべきチャンスをしっかり沈めて、相手の傷口に塩をこれでもかと塗り込む大勝(5−2)で彼らを最下位に叩き落とす。

続いて11月、トゥヴェンテ(0−3)との対戦、12月に入ってすぐのフェイエノールトとの首位決戦(1−2)、そして年内最後のAZ(0−4)との対戦も乗り越えると、23/24シーズンはリーグ戦16試合全勝、56得点、6失点の圧倒的なスタッツを携えて冬の王者に。

全勝の順位表は、なんだかサッカーゲームのようで現実味がないですが、たまにはあるんですね。

引用 https://eredivisie.nl/competitie/stand/

CLではアーセナル、RCランス、セビージャとの対戦。初戦はアーセナルのCL復帰を盛大に盛り上げるディナーのメインディッシュを化す4−0の大敗を喫し、ホーム開幕戦のセビージャとの対戦ではなぜ引き分けられたのか不思議な劣勢ぶりながら2−2引き分け。

ランスとのアウェーとホームでの連戦を1勝1分で乗り超えると、セビージャ遠征で奇跡の大逆転。

2−0からのカムバックは一生忘れない試合の一つになった上、この結果でセビージャ、ランスの両チームを直接対決で上回ることが決まり、5節終了時点でまさかの2位突破、欧州戦での冬越え決定。

両チームとも突破も順位もすでに確定していたために、CL最終戦はアーセナル相手にターンオーバーをかますという名門ムーヴをかまし、1−1で引き分けで締め。

よそのグループ見ればまず組み分けにとても恵まれた感があるのは否めないが、とはいえそういうグループに入ったチャンスを手にして突破したのだから、とてもよく頑張ったと思う。

引用: https://www.uefa.com/uefachampionsleague/standings/

所感と今後

このPSVは歴史上最も不思議なチームだと思う。過去のチーム、ヒディンクやコクーが率いた時にチームが見せたような、強さを裏づけるパフォーマンスで完勝した試合はないのに、その割になぜか風が吹き、結果がついてくる。何かの加護が働いているようにすら感じる。

チームで言えば、やはりラマーリョの不安定なパフォーマンスによる右CBのスタメン不在がこのチームの最大の問題であり、フィーエマンやデストが時折犯す無茶な判断と下らないパスミス、ベニテスからの組み立てのぎこちなさも依然としてピンチを招いている。まだまだ良くなる余地は残っている。

しかしながら、勝ち点を溢すようなことがなかったのは、成長著しいバカヨコやサイバリをはじめとする前線の選手たちから月替わりでヒーローが生まれる好調、オフェンスの整理には定評のあるボスの流石の采配、そしてそれを可能にするだけの陣容をそろえた新フットボール・ダイレクターのシュトゥヴァルト(とその背後で動くブランズ)の仕事の成果。

首位決戦の前に、フェイエノールトの伝説であり、オランダフットボール界のご意見番のファンハネヘムは、冬の補強でPSVがまともなCBを獲得すれば、この試合をフェイエノールトが制そうとも、もうタイトルレースは決まり、とコメントしていたけれど、自分も全くその通りだと思う。

アルマンド・オビスポがカムバック、そしてさらなる成長を見せ、CB問題のアンサーとなることを個人的には願っているけれど、そういった存在がチームに加われば、いまいち煮え切らないパフォーマンスで前半戦を終えているドルトムントと対戦するCLで、もしかしたら、また何かが起こるかもしれない。

冬休みを挟んで、まずは、いつになったら負けるのかな?などと、しばらくはのれるうちに調子をこきながら、ひきつづき、毎試合を楽しみたい。

リーグタイトルは、2023年全勝が重くのしかかり、逃すようなことがあれば、ベーカー3連覇を果たしたとて、失望のシーズンと言われかねない難しさがあると思うけれど、今のチームはなんとなく、不思議と乗り越えてしまいそうな予感がある。

次回は選手にスポットを当てて、23−24シーズンのチームを冬の通信簿的に選手を紹介する予定。

後半戦も、Come on, PSV!

<了>

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