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ペイフォワード

まだ少し若かった頃、ある製品を出荷する直前に不具合を見つけてしまった。

工場での量産準備まで終わった後だった。
しかも、すでに受注もしていてあとはたくさん売るぞーみたいな雰囲気の中で。

とりあえず、その日は何もできず夜も眠れなかった。眠れなかったので、次の日とんでもなく早く会社に行った。たしか朝7時頃だったと思う。
すると、オフィスの電気はもうついていて、なぜか開発リーダーの人が1人でオフィスに来ていた。今考えても、なぜあの時間にオフィスにいたのかわからない。

「早いね。どうしたの、何かあった?」
笑いながら挨拶がてら聞いてくれたのだろうが、私の不穏な気配を感じとってか、
「話聞こうか?」
って言ってくれて
そのあと正直に話した。
「見つけちゃったものはしかたないよな。俺がなんとかするよ。話してくれてありがとう。」

といって、すぐに工場や営業含めて数十人の関係者を集めて出荷延期の調整をしてくれた。

営業部長の失望した、うらめしそうな顔は今でも覚えている。その気持ちはわかる。お客様に謝るのは営業担当者なのだ。

よくあることだったのかもしれない。
今思えばかなり無理のあるスケジュールだった。
その中で起きた、ありうる綻びと客観的にはみれるだろう。

あの頃の私には、そんな俯瞰する余裕はなかった。ただ、あの時、あの場所にいてくれたリーダーの人に感謝しかなかった。(ほんとになんでいたんだろう。)

時はたち、東アジア的自己犠牲精神で向かってくるプレッシャーにも、自分の精神や生命を傷つけていいものは何もないと図太く対処できる自分がいる。

オフィスには、少し早めにいく。
あの頃の私のように絶望感を感じている人がいたら、声をかけて力になってあげられるように。

あの時リーダーだった人のように。

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