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登園拒否の繊細な子の話

 過剰適応という言葉を聞いたことがあるだろうか?
 私はつい最近初めて知った。息子のことである。

 三歳の息子はこの春から幼稚園に通い始めた。園内はとても清潔で、先生方の雰囲気もよく、クラスの人数も多い。温かい環境の中で集団生活に慣れてほしい。周囲の子たちと穏やかに交流しながら、伸び伸びと自分らしさを発揮してほしい。そういった願いを込めて決めた園だった。

 しかし、入園から程なくして、息子の言動が豹変した。
 家で暴言を吐いたり、妹に暴力を振るったり、物を投げたり傷つけたりと、荒れ狂うようになった。朝は必ず登園を嫌がり、泣き叫んで何も準備しようとしない。
 送迎をしていた妻も、主な遊び相手になっていた私も疲労困憊で尋常ではないストレスを抱えていた。息子のちょっとした言動に過敏になり、苛立ってしまい、つい怒鳴ってしまうこともあった。
 そんな私たちの対応もよくないと自覚があり、どうしたらよいかわからずに周囲に頻繁に相談した。そして、いろいろな可能性を考えた。母子分離不安や妹に対する嫉妬心かもしれない。しかし、対策を講じても何一つとしてうまくいかない。あるいは、園に慣れたら少しは解消されるかもしれない。だが、日に日にエスカレートしていく一方であった。

 あるとき、自由参観の機会に、園での息子の様子を見に行くことができた。そこで驚く光景を目にした。
 息子は先生の話を真面目に聞き、すべてを完璧にこなしている。完全なる優等生だったのだ。しかし、もっと大きな違和感があった。笑顔が何一つないのだ。また、周囲の子たちから声をかけられたり、ちょっかいを出されたりしても無反応。家とは別人格の息子がそこにいた。
 胸が苦しくなった。常に周囲の目や声、言葉、動きに敏感に反応し、その場に相応しい最適な行動を選び取っている。主体性はなく、言われたことを遂行するロボットのようである。子供らしさや本来の息子らしさなど微塵も存在しないのだ。

 そこで先日、三歳児検診で臨床心理士の先生に、このことを相談すると、「過剰適応ではないか」と話をされた。
 過剰適応とは、

その場の環境、その時の人間関係に合わせて、
その場にふさわしいと感じる振る舞いを過剰にとる、行動のパターン。
自分が「どうしたいか」よりも、常に「どうすべきか」を考える。
先生や大人、友達の顔色を伺い、相手が喜びそうな行動をとる。
例え自分が望まないことでも、相手との人間関係を円滑に保つことを常に優先する。
(引用:過剰適応タイプの子どもを助長してしまう大人の特徴と、改善させるために知っておくべき大人の心構えとは。 - 対人援助職のメンタルヘルスを改善する!バウンダリー(境界線)ラーニング | AIDERS(エイダーズ) (aiders.net)

 ああ……まさしく、これだ! と、ようやく腑に落ちる結論に出会うことができた。
 そして後日、実際に園での様子を見てもらった。その結果、やはり明らかな過剰適応の特徴が現れていることがわかり、園の先生方にもその旨を伝えていただいた。
 ようやく休むことが甘えではないと安心することができたので、早速、次の日から園を休むことに決めた。これには息子も喜び、しばらくハイテンションで眠れなかった。

 が、しかし。園は、母子分離不安や母子の関係性の問題ではないかと主張。支援の工夫も行っていくからと、登園するように勧めてくる。
 いやいや、論点がおかしいでしょう。本人が登園をこんなに拒んで苦しんでいて、過剰適応の可能性があると専門家も言っているのに、問題は家庭にあると決めつけてくるのはどうかと。もちろん、私たち親の対応も改善しなければならないことはたくさんあるのだけども。
 今は、しばらく休みをとって、本人が楽しめる活動をたくさんすること、そして、落ち着いてきたら環境を変えて再出発したいと考えている。
 まだまだ課題は山積み。ずっと山積みなんだろうなぁ。子育ては奥が深すぎる。

 息子よ、もっと早く気づけなくてごめん。ずっとSOSを出していたんだよな。でも、これからは大丈夫だから。
 そして、大抵のことは何かあっても何とかなる。今を存分に、一緒に楽しもう!

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