秋の来ない恋
彼女の恋は夏に始まって夏に終わる。
決まってそうだ。
夏の暑さのなかで情熱的に燃え上がり、夏の終わりとともにそれは終わりを遂げる。
秋の来ない恋。
彼女の恋は、そんな恋だ。
彼女の恋に、秋は来ない。
僕と彼女の恋は、花火大会で始まった。
それは夏の終わりのイベントだった。
本当だったら彼女の恋が終わるとき、僕らの恋はスタートした。
それは、予期せぬ出来事だった。
ビートルズの「抱きしめたい」は、「I wanna hold your hand」という原題で、正しくは「手を握りたい」だ。
彼女が僕の手を握った。
僕の頭の中では「抱きしめたい」が流れていた。
ジョン・レノンが僕の中で歌っていた。
「アホなこと言うな~、アホなこと言うな~♪」
僕らの恋はイレギュラーだった。
だって彼女の恋に秋は来ない。
それは、未知の世界だった。
ああ、そういえば彼女の名前は美千だった。
取ってつけたようなお話だった。
「何の盛り上がりもなくて、淡々としてるのね」
「え?」
「私達の恋。「Tommow never knows」みたい」
「「Tommow never knows」?」
「ビートルズの。ほら、あの曲ってさあ、ずっとコードがCじゃない。サビとか盛り上がりとかなくて、淡々としてる」
「ずっとCが続くって、なんだかいいね」
「あ、いやらしいこと考えてるでしょ?」
「うん」
僕は彼女とまだ寝ていない。
ずっとC、がしてみたい。
「でも、「明日は決してわからない」って、なんだか不安だよ」
「ええ? ワクワクしない?」
彼女の恋はワクワクなのだ。淡々としてるのにワクワクするなんて。これも新しい恋のかたちなのかな?
「ココイチのカレーみたい」
「ココイチのカレー?」
「うん、ココイチのカレーって、飛び抜けて美味しいわけじゃないのよね。でもずっと食べていられる。飽きが来ないのよ。私達の恋も、きっとそうよ。飽きの来ない恋」
「飽きの来ない恋? 何か変なの」
「ねえ、カレーの話ししてたらカレーが食べたくなっちゃった。うち来てカレー食べる? カレー作るの得意なの」
僕は彼女のアパートに行って、カレーを食べた。
「飽きの来ない味だね」
「うん、飽きの来ない味」
僕らの恋は、飽きの来ない恋。
飽きの来ない恋に、秋は来る。
おわり。
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