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出産体験記-産後-

目が覚めて、ぼんやりした頭のままふと仰向けの体勢になった。

あ。
苦しくない。

そうか、もうお腹にはいないんだ。
昨日出したんだ。

お腹を撫でてみる。
ペタンコ、というほどではないが凹んでいるし何より軽い。

全身が筋肉痛のように痛い。
股に違和感がある。

検温をして、血圧を測る。
ヨロヨロとトイレに行く。
股からは生理とは比較にならないくらい血が出ている。

下着は使い捨てのふんどしのようなものに、産褥パットというめちゃくちゃでかくて分厚いナプキンのようなものを当てているので、トイレに行くのもいちいち手間だ。

会陰を縫っているので、踏ん張るのもペーパーで拭くのも怖い。
痛さという意味ではそれほどではないが、とにかく恐怖感が拭えない。

食事をして昼過ぎまでボンヤリベッドで過ごしたあとは、いよいよ育児のスタートである。

まずは授乳だ。
当然のようにうまくいかない。

私も赤子も初心者なので当たり前だ。

助産師さんが見兼ねて、乳首を掴んで赤子の口にねじ込み、赤子の頭を胸に押し付けた。
それでようやく赤子が乳を吸った。
あ、結構痛いぞこれ。

しかし何も出ていないようで、すぐに離してしまった。
助産師さんは思い切り乳首を抓り上げた。
めちゃくちゃ痛い。
乳首の先からほんの少しだけ、黄色っぽい脂のようなものが滲んできた。

「何度か吸わせるうちに出てくるから」
この病院はとくに完母推奨というわけではなく足りなければミルクを足してねというスタンスなのでそこは気が楽であった。


しかし吸わせ方が浅かったために、すぐに乳首が切れた。吸われるたびに身体が震える程に痛いのだ。これは3ヶ月過ぎまで痛かった。

そして赤子に乳を吸われると、子宮が収縮して痛みが走る。
後陣痛というやつだ。
これもなかなか痛い。産後数日は思い出したように後陣痛が襲ってきては眠れず痛み止めを飲んでやり過ごしていた。

後陣痛だけでなく赤子に乳を吸われると、吸われていないもう片方の乳にキューンとした痛みが走る。母乳が作られる痛みなのかよくわからない。悶絶するような痛みではないが、独特な痛みで産後しばらくすると忘れてしまう。
そういう人体の不思議のようなことがたくさんおこるのが出産でもある。

翌日には沐浴指導があった。
沐浴室に向かう途中、私は人生で初めて貧血で倒れた。

いきなり倒れたので、近くにいた見知らぬ新米パパが慌てて看護師さんを呼んでくれた。
車椅子で部屋まで運ばれた。

「出血が多かったからね〜。お薬出しますね」
ここで初めて、出血が多かったことを知った。後から母子手帳を見ると1リットルほど出血していたようだった。(とは言え分娩時の出血は羊水込みなので1リットル超でもそれほど珍しいことではない)

そうか…出産後ボーッとしてたのは血が足りなかったのか……
となんとなく合点がいった。

退院前の診察では医師の内診を受けた。
傷口を触っているなと思ったら
「抜糸するよ〜」といきなりズババっと抜糸された。

不意打ちだったのと相まって変な声が漏れるほど痛かった。
中の方まで裂けていたためか、溶ける糸ではなかったらしい。


産前産後、とにかく出産は痛いことが多い。
というか、基本的に痛いことしかない。

授乳がこんなに痛いなんて誰も教えてくれなかった。
三時間おきに授乳をするのに、授乳に30分から1時間かかる間ずっと痛い。つまり1日のうち三分の一の時間は痛みに耐えなければならない。
あんな痛みに耐えて出産した後に、眠れないだけではなくこんな仕打ちがあるのかと思った。

私は幸いにも乳腺炎にはならなかったが、それでも授乳の間隔が空くと胸がカチカチに張ってしまうことはしょっちゅうで、これもまた熱を持って痛くなる。
慌てて子に吸ってもらうと噴水のように吹き出た乳で子どもが溺れかけてしまったりもする。
その間壊れた水道の如く反対側の乳からも母乳は出てしまい下着や服を突き抜けてビショビショになる様は何とも言えない間抜けさがある。


痛い。
なんか常にどっか痛い。

ずっと抱っこをしているから腕が痛い。
腱鞘炎になる人もいる。

下を向く体勢でいることが多いから、首も肩も痛い。

抱っこ紐を使っても腰が痛い。
もともと腰痛持ちだったが、産後はさらに酷くなった。

出産でMAXに開いた骨盤がグラグラしている。産後骨盤矯正に通って、違和感がなくなって産前のようにスポーツができるようになったのは産後10ヶ月過ぎてからであった。
(そして復帰後すぐに第二子の妊娠が判明してまたスポーツはできなくなった…)

出産は痛いことばかりだ。
育児も大変なことばかりである。

正直なところ、妊娠出産における男女の負担の差が大き過ぎる。
半分とは言わないから、せめて五分の一でも男側に振れないものかと割とマジで思う。

とか言いながら、年子で第二子を欲したのだから人間は都合の悪いことはさっさと忘れてしまうらしい。


第二子を妊娠して、ふと第一子の出産はどうだったかなと思い立ち会った夫と母に聞いてみた。

夫は「大変そうだった」という感想だった。
うん。見ての通り大変だった。

時間感覚がなくなっているのだが、夫曰くテニスボールで押していたのは三時間ほどだったらしい。そんなに長かったのか。そら辛いわ(私が)。

母は「(自分が)部屋を出されてから長かった。出すのが下手なんじゃないか。私の時はもっと早かった」というTHE余計なお世話なことを言ってきた。
正直カチンときた。

初めてなんだから下手でも仕方あるまい。
母子ともに無事生まれてきたのだから万々歳だ。いちいち余計なことを言うのが母の悪い癖なのだ。2人目の時は呼ばないでおこうかと割とマジで考えた。
家族含め部外者は余計なことは言わないが吉である。痛い思いをしているのは産婦1人だ。

私の個人的な感想としては、「めちゃくちゃ痛かったし大変だったけど、思ったほどではなかった」である。

記憶が曖昧な部分もあるのだが、もっと死ぬほどの痛みでもっと取り乱すかと思っていたのだ。
だが、う●このことを考えたり、声を抑えたりする程度の分別はあったことは確かなのだ。
事前にビビりまくっていた分、自分の中で陣痛に対するハードルが上がりまくっていたのかもしれない。

とは言え、やらないで済むなら越したことはない。
次は無痛にしよう…。
そう決めたのであった。

#出産レポ #初産 #出産

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