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ホワイトデーのお返し


バレンタインデーに、私は、職場の私の周りの人たちにチョコレートを配った。周りというのは、席が近いという意味。スーパーに売ってる、大袋に入ったアポロチョコ。パッケージが可愛いかったし、中身はアポロチョコだから間違いないし、デスクに置いた時に袋が立つ三角形のカタチも良いなと思った。私としては、お返しなんて全くもらうつもりのない、いや逆にお返しなんてもらったら申し訳ないような、気軽なチョコのつもりだった。


ところが、ホワイトデーに、そのチョコを配った人たちから次々にお返しをいただいた。多くは焼き菓子やクッキーで、とはいえ、箱入りとかではなく、マドレーヌ1つとスコーン1つとか、大きめのクッキー1枚と個包装のチョコとか。私が大好きなお店のどら焼きもあった。にしても、私のアポロチョコからするともらい過ぎてる感じではあった。申し訳ないと言いながらありがたくいただいとく。考えてみると私はその人たちの仕事を結構手伝っている。同僚の中でもよく手伝っている人たちであった。なので、そのお礼も兼ねてるんだよね?と勝手に解釈(拡大解釈ともいう)して、ありがたくいただいた。


昔は部署の女性陣でお金を出し合って男性へチョコをあげたりしたもんだったが、そういう習慣はいつのまにか無くなった。ああいうのも誰か号令をかける人がいないとなかなか言い出しにくいし、「あの人にはあげたくない」みたいに思ってる対象がいる人がいないとも限らないので、「皆で一緒に」はありがた迷惑かも知れない。自分がこの人に、と思う人にあげれば良いし、あげなくても良い。私の場合は、普段から何かと力になってくれてる人と、普段から何かと美味しい物を買ってきては「これどうぞ」とくれる人に、それなりのチョコレートをあげた。その他の人にはアポロチョコ。バレンタインだしね、しるしだけでもね、って感じ。そんなのにいちいちお返しするのは、ホントは嫌だろうなって思う。そしたら、昨年の春に大学を卒業したばかりの男性が、ちゃんとしたホワイトデー用の箱に入ったチョコを返してくれた。これはホントに申し訳なかった。


「こんなのお返しされたら申し訳ないよ。私なんて、ポロっと一つあげただけなのに」
「いや、良いんです。嬉しかったし、僕の気持ちなんで」
「でもこれじゃあ、釣り合いがとれない」
「そんなことないです。それに僕、普段お金を使うことがないんで、たまにはお金を使うのは良いんです」
「そんな、そんな‥」


こんなやりとりの後、実は返す人によってお返しの品が違うことが判明した。

「僕が見て面白いと思ったのを買いました」
と私が渡されたのは、葉っぱのカタチの抹茶味のチョコが植物みたいに並んでいるチョコレートだった。チョコの上にドライフルーツがトッピングされている。なかなか良いではないか。私の隣の女性にはまた別のチョコ。


「でも、一番面白いのはまだここにあるんです」と袋から取り出したのは、恐竜のカタチ(全身)の、大きめのチョコレート。それは、私が一番仲良くしている若い女性のデスクに、デンと置かれた。彼女はその日たまたま出張だったので、次の日それを見てどういう反応をするのだろうかと楽しみで、チョコレートのことは知らせず伏せておいた。それにしても、あの恐竜のチョコはないわー。食べづらいし、大人の女性に恐竜のチョコって‥あれを喜べるような女性を、彼は探すべきだな、と一人密かに納得したのだった。

あと、来年は皆にもうちょっと良いチョコを用意しようって思った。


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