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ナニ・コレ・スキ


私は本を読むことが好きだ。その大半は現代の作家さんの小説だ。たまたま読んだ作品が好みだと、同じ作家さんの作品を続けて読みたくなるのは当然だ。


架空の犬と、嘘をつく猫/寺地はるな

IMG_5516 のコピー


たまたま出会った『水を縫う』が好きすぎて、この人の作品をもっと読みたいと思い手にとった一冊。だって、タイトルが好き。

空想の世界に生きる母、愛人の元に逃げる父、その全てに反発する姉、そして思い付きで動く適当な祖父と比較的まともな祖母。そんな家の長男として生まれた山吹は、幼い頃から皆に合わせて成長してきた。だけど大人になり彼らの《嘘》がほどかれたとき、本当の家族の姿が見えてきてーー?
これは破綻した嘘をつき続けた家族の、とある素敵な物語!
(「BOOK」データベースより)

羽猫さんちの30年に渡る家族の物語だ。30年って、もう朝ドラやん。家族団欒を知らずに、いつも誰かがいない家庭で育った、山吹くん。そういえばつい最近、どこかで見たか聞いたかしたフレーズ、子どもは大人が考えてるよりもっとずっといろんなことを分かっている、みたいな内容だった。それは山吹くんにもあてはまる。だから不憫で、辛くなる。そんな中、折々の祖母の言葉に救われる。

「自分以外の人間のために生きたらだめ。」
「あんた(山吹)は社会にとってなんの役にも立ってない子。でもそれがあんたがいなくていい理由にはならない」

そんな祖母は、家のガラクタに嘘の情報をくっつけて人に売っている。悪く言えばインチキ、詐欺。

「どうせなら付随する物語があったほうが楽しい。プレゼントに結わえつけるリボンと同じだ。」

山吹くんが8歳の時から物語が始まって、最後は当然大人になった山吹くんで、子どもの頃に想像した大人にはなれなくて、いろいろ自信もなくて、昔見ていた大人たち同様現実に目を向けたくなくて。

「どうにもならんことは、たぶん大人になってからもあるよ」

生きていくのに“ちょうどいいやり方”は人それぞれで、逃げることが必要なら逃げても良いし、大人だからといって強く正しくある必要は無いんだよ、と。結局、いい加減な家族はそのことを山吹くんに教えてくれたのかも知れない。大人になるということは、何もかもを正しく理解することではないのだ。分からないことは分からないままでも良い。

「それでもかかわることはできる。寄り添うことも。(中略)わからなくても、愛せなくても、その存在を認めることはできる。愛せなくてもいい。そのことに救われる人間もいる。」

生きるために必要だった嘘や、現実には存在しない何かを、心のよりどころにするのはおかしなことじゃないんだよという、作者さんからのメッセージ。だって、大人になった山吹くんは、こんなことが言える人になった。

物語というのは、言ってしまえば現実に起こったことではない。嘘です。
それでも物語には、それを書いた人の思いや、願いが、たくさんつまっています。物語のかたちをとって伝えようとした思いや願いは、ぜったい嘘でも架空でもなく、そこにあります。


ナニ、コレ、スキ!寺地はるなさん、スキ。

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さて、この小説を読んで、私はある人のことを思っている。福島太郎さんだ。福島さんは、地元・福島のために自分が出来ることをと、福島をテーマにした小説を書いている。福島さんの紡ぐ物語はもちろん架空のお話で、福島にまつわるいくつものキーワードからインスピレーションを受けて、それを物語に昇華させていらっしゃる。ご自分の出来ることが、地元をテーマにした小説を書くことだなんて、カッコ良すぎだ。福島さんの物語には、福島さんの、福島に対する思いや願いがいっぱいつまっている。そしてその物語を読んだ後、その思いや願いは読んだ私の心に伝わった。福島さんの思いや願いは、そこにあった。福島さん、素晴らしい物語をありがとうございます。

福島さんのnoteはこちら↓



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