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映画 「ビバリウム」 終わらない集合住宅生活


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ようこそ、夢のマイホームへ・・・ 新居を探すトム(アイゼンバーグ)とジェマ(プーツ)は、ふと足を踏み入れた不動産屋から、全く同じ家が並ぶ住宅地<Yonder>を紹介される。内見を終え帰ろうとすると、ついさっきまで案内していた不動産屋 が見当たらない。不安に思った二人は、帰路につこうと車を走らせるが、どこまでいっても景色は一向に変 わらない。二人はこの住宅地から抜け出せなくなってしまったのだ―― そこへ送られてきた一つの段ボール。中には誰の子かわからないうまれたばかりの赤ん坊。 果たして二人はこの住宅地から出ることができるのか―不動産屋の狙いはいったい何なのかー?

上映終了間際だったからか風俗街のなかにある映画館の四番スクリーンには意外と人がいて、一人で来てる中年の女性とか、なんとなくおしゃれな雰囲気を醸し出してる青年とか、いろんな人がいた。

*ネタバレ

不動産屋に家探しをしにきたカップルが押し売りセールスマンにそそのかされ、なんの気無しに郊外の集合住宅街「ヨンダー」を見学しに行ったが最後、そこはどれだけ頑張ろうと脱出できない4次元空間だった……段ボール箱に詰められて送られてきた赤ちゃんは犬みたいな早さで成長していくし、息子みたいに扱おうとしたらめちゃくちゃきもい体の構造してるし、でお母さん役のジェマはへとへとに。お父さん役を果たすはずのトムは逃げるように庭に大穴を掘る仕事に打ち込んで体調を崩し、徐々に妻から求めてくる性行為も拒否するようになり、徐々に老いていく。一緒に歯磨きをしていたのに次第に寝床もバラバラになって、体力が老人同然になったトムは最後に楽しかった頃のふたりを振り返りながら息絶える。

やがて息子はいつかの押し売りセールスマンと酷似した見た目となり、老衰した前の「マーティン」に変わって次の餌食となるつがいを待ち受ける……というオチ。

ひとたび家庭を持つと途端にローンや育児や家庭に束縛される不条理さがごく身近なテーマだからこそ、それがカップル二人に感情移入できた一因でもあると思う。

トムとジェマがなにもかも人工的な街に耐えられず車に乗り込み、車の匂いを吸い込んで「わかるか、本物の匂いがする」と共感しあうシーンとか、こっちにまでヨンダーの不自然でプラスチックめいた匂いが一瞬漂ってきた気がした。生ぬるい気温、妙にまずい食物類、次第に飽きていく愉しみ、雲らしい雲……そのなかで音楽を聴いた瞬間昔に戻ったみたいに息子の存在も忘れてダンスするくらい、人間にとっての音楽って活力を見出せるものなんだなあと思った。

大人に育ったマーティンが簡易棺桶にジェマを詰めるとき、「私はあんたのママじゃない」と最期の言葉を憎らしげに言った彼女に対して「Whatever(あっそ)」とそっけなく言った、この言葉にこの映画の芯みたいなものが詰まっているように感じた、、個人的には。勝手に期待して自分で産んだくせに「あんたなんか産むんじゃなかった」とか言う親って世の中に腐るほどいるんでしょうね。

とくにこわくてお気に入りのシーンが、工具で頭を殴られた息子がカカカカカ……って言いながらこちらを伺いつつ、四足歩行で道路の溝を歪ませて入っていくとこ。

歪みに入って脱出できるかと思いきや、同じ立場のカップルたちがリビングで泣き腫らしていたり、風呂場で自殺して血の風呂に浸かっていたり……そこにあるのは絶望で、ジェマはただ見ていることしかできない。肌かなにかがスクリーンいっぱいになって何を写しているのかわからない映像のつくりとか、夢のなかのどうにも身動きがとれない感を彷彿とさせて良かった。

トムのフォルクスワーゲンの車内でかかっていた「Rudy, A Message to You」もいいし、エンディングのXTC「Complicated Game」もぴったりはまってました。


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