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Stones alive complex (Peristerite)

フェーズシフトする天使のペリステライトに手を掴まれながら、
天使専用車両に乗せられている。

急ぎの打ち合わせでゴジュッポヒャッポンギヒルズへ向かってたボクは。
途中の歩道橋で、天空から舞い降りてきたペリステライトに、荒鷲にさらわれるように拉致された。

有無を言わさずペリステライトは、ボクを妄想の天都へ運び飛んでゆく。

すぐに兎亀駅へと連れてゆかれた。
天都都心環状線の兎亀駅から兎亀駅まで¥820の乗車券2人分を買い。
天使専用車両しかない都心環状線の列車に乗車して、兎亀駅から兎亀駅へと向かっている。

手短に説明しよう。
天都都心環状線には駅がひとつしかない。
それが兎亀駅だ。
そこから出発して、ぐるーりっと天都市街地を周遊、そして兎亀駅に着いた。

駅がひとつしかない環状線なんてものが天都にはあると知る。

列車から降り、賑わう駅の構内を並んで歩き出す。

「同じように見えるかもしれないけれど、
ここは出発した兎亀駅よりワンポイント上の兎亀駅なのよ」

それが事実かどうかは確かめようがないけども、
そう思えばなんとなくに気分はちょっと上がってる気がするな。
無理に上げてる部分もあるけども。

「それ大事!」

ペリステライトはボクの肩を指導熱心な部活の顧問の勢いで叩く。

くすくす笑う。
「0と1。1と2。どちらも差は1だけど。意味合いはまるで違うわ。
モノが有るか無いかの有無の世界と、
モノが幾つあるかの幾多の世界とでは成り立ちが異なるの。
どうしたら笑えるか、から、どれくらい笑えるか、ね」

くすくす笑いがいっそう大きくなって。
ペリステライトは折りたたんでいた背中の翼を道幅いっぱいに伸ばす。
彼女は高揚した気分に突き動かされ歩いていられなくなりボクの手を引っ張ったまま小走りを始める。
中央出口へ続く通路に、ペリステライトの爆笑が、ふははっはははっと反響した。

「おおお!天使様のお通りだぞ!」
「浄化の翼を広げし御方!」
「どうか導きの福音をお授けください!」

天使のペリステライトを見つけて頭を垂れるコンコースの雑踏を、
ペリステライトの広げた翼がためらいなくなぎ倒してゆく。
駅構内は次々とエンジェルウイングラリアットで倒された人々で埋め尽くされ。
ちょっと乱暴なイニシエーションを受け、床で法悦の身悶えをする人々が漏らす祝福感のうおううおうという呻き声で満ちた兎亀駅は成り立ちを変えて、ハルマゲドンの吹奏楽器になった。

「完璧な天使などといったものは存在しないわ!
完璧なうがい薬が存在しないようにね!」

倒れし子羊の民へと、降り注がれるそのペリステ天使様のお告げには、
深い含蓄がありそうで、なさそうだ。

その勢いは駅を出てからも衰えなかった。
シュッと翼を畳むと、ドアを開けて待っていた駅前のタクシーへボクを引っぱり一緒に突っ込む。

「ど、ど、どこまで行かれますかかかか?お客様ままま」

突っ込んだ衝撃で上下するタクシーが運転手さんの声を揺らす。

「ここからいちばん遠い所へ行って!」

間髪おかずペリステライトは答えた。

えー!ちょ待ってや!
そこまでどれくらい時間かかんの?
打ち合わせに遅刻しちゃうんだけど!

止まったままニュートラルでぶおんとアクセルをふかし、
運転手さんは事務的に告げた。

「御乗車お疲れ様でした。到着いたしました」

は?タクシーは止まったまんまだけど?

「もう到着しております」

運転手さんは穏やかに言い張る。

「球体の表面に住んでいる限り。ここからいちばん遠い場所は、ここなのよ」

そうペリステライトは、両手をボクの両肩に置き。

「荒野に伏せる狼は地平に希望を探し、
楽園で飼われた羊は雲間に不満を浮かべるものよ、ふふふ」

なにを偉そうに例えてるのかさっぱり分からないのだが・・・

「さあ、いよいよ今からタクシーを降りるわよ。
この外は実感が無いかもしれないけれど、
1周回ってワンポイント上がった兎亀駅前タクシー乗り場なんだからねっ!」

それが事実かどうかは確かめようがないけども、
そう思えばなんとなくに気分は上がる気がするよ。

「それ大事!
その繰り返しものすごく大事!
アナタはどんどんこのノリに慣れていくわね!
素敵なことよ!」

運転手さんがメーターを指さす。

「御乗車ありがとうございました。
乗車料金は、
円周40,075km×¥410=¥16,430,750になります」

そこはちゃんと取るんだ、料金!
こりゃまた素敵なぼったくりくり!╮(๑•́ ₃•̀)╭

「初乗り料はサービスしときましたよ」
振り返りもせずクールに言う運転手さん。

ペリステライトはクレジットカードとTポイントカードをスカル柄の財布をパチンと開けて運転手さんへ差し出した。

「うふふ。天都のとっても素敵なとこはね。
交通機関の利用すべてにTポイントが付くの!」

振り向かず右手を回したクールな運転手さんとペリステライトは、
へいへいでグーのコブシをこつんと合わせる。

「ここだけの話にしといてね。
天使業界の通貨は、Tポイントなの!
Tenshiだけにね!」

Tって、そのTだったっけ!?
ちゃうやろ!?
Tの頭文字っていうのは、たしか・・・

「もうワンチャンスあげるわ!」

言葉をさえぎり、ペリステライトはボクに二枚のチケットを見せる。

それは、
天都国際空港の、天都国際空港から天都国際空港への旅客券だった。

いやいや、もうそんな暇ないし!打ち合わせにシャレならで遅刻しちゃう・・・

タクシーのドアが自動で開いた瞬間、
ペリステライトが後部座席に座ったまんまで翼をTの字に広げた。

それに押し出され、
ボクはワンランク上の兎亀駅前タクシー乗り場へ、転がり出される。

「さあ!がんがんポイント稼ぎに行くわよ!」

続いてペリステライトが、
止まらぬ勢いの爆笑と共に、タクシーから降りてくる。

(おわり)

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