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Stones alive complex (Dumortierite in Quartz)

ヘルシング校長の祝辞は留まるところを知らず、二日目の朝を迎えようとしていた。

バンパイアハンター専門学校の体育館で行われている卒業式の会場には、卒業生である若きハンターの雛たちが並び、壇上にいる校長からの有難いお言葉を直立不動の姿勢で耳を傾け・・・られているのはなんとかまだ立っていられる強者だけで。
その強者の雛たちのまわりには、雛から卵へ戻ってしまったか?のごとく床で丸くなり爆睡している若きバンパイアハンターたちがいる。

数人が時おり、ちらほら目覚めてわずかに瞼を開いたが、まだ祝辞が続いているのを確認すると、再び目を閉じイビキをかきはじめた。

その光景をものともせず、校長の祝辞はその口先からほとばしりでる熱が衰えることを知らない。
今でも現役でバンパイアハンターの頂点に君臨する、さすが校長。

「・・・と、以上が、ハイレベルなバンパイアハンターの養成を使命とする我が校の長きに渡る誉れ高き歴史である!」

校長は話を一区切りつけて、拳を卒業生へと突き出す!

在学中でも行事のたびに耳タコで聞かされた母校の数千年の歴史を、改めて時系列順で詳細に、どうでもええオマケのエピソードもふんだんに交え語り続けてきた校長の祝辞の前フリにも、ようやく終わりの気配がしてきた。

立っていられてた強者の雛のひとりが、ふらっとしゃがんで、横倒しになった。
彼の鼻からは、しゃがむ前からイビキが漏れていた。

ヘルシング校長は卒業生への祝辞を語り始める前に、ふたつの約束をしていた。

ひとつめ。
「私の祝辞は、みなさんの想像以上に長くなる。それを聞いたみなさんが今一瞬想像した長さすらをも超えた長さになる予定だ。
なので。
途中退場は気軽に自由にしてくれても構わない。
それを咎める教師はここには、いない」
であった。

リクライニング付きの参列席で卒業式に立ち会っているゴージャスな身なりの教師たちは、校長のひとつめの約束に、大きく御機嫌な表情でうなづき同意した。

生徒たちは、この学校の教師たちはなぜとんでもなく身なりや生活がゴージャスなのか?在学中そこがいつも疑問だった。
バンパイアハンターって、そんなに稼げる商売なのか?

その疑問の答えは、
校長のふたつめの約束で解けていた。

そして、途中退場する卒業生は誰もいなかった。

演壇の校長は軽く咳払いして、祝辞を続ける。

「それではと。
宣言通りに我が校の偉大なる歴史話などなどで前置きが長くなってしまったが・・・
そろりそろりと本題に入ろう。
これから皆さんはプロのハンターとなり。
人に紛れて潜んでるバンパイアどもを見極め、一匹を退治するごとに、困ってる村とか自治体とかから報酬は幾ら、というような生活が始まってゆくわけですが・・・」

強者たちは、崩れそうな膝を踏ん張った。
ここで寝てもうたら、ここまで耐えてきた二日間がパーになってまう!

「その仕事をする上で、大変に参考となるに違いない・・・
・・・私自身の生い立ちから、華々しいバンパイアハンターとして名をあげることになった、みなさんが知らないエピソードも数多く取り揃えた武勇伝をこれから一個づつ丁寧にお話しすることにしよう!
この時この場所でこの話を、皆さんへするためだけに!
私は普段から一生懸命に校長やっているようなものなのだ!」

校長は、いつも首から下げてるデュモルチェライトで作られた国王陛下から直々に授与された勲章を、熱がこもった手でぐっと掴む。

マジで、想像以上の想像のそれ以上に、長くなりそうだ・・・

まだ立っていられるが、もうすぐ立っていられなくなる感じでふらつきだした強者たちの頭の中には。
校長の約束の言葉、ふたつめだけがリフレインしていた。
それは。

「私の祝辞の最後に、
優秀なる卒業生への贈り物として。
『授業では教えなかったけど秒速で億稼げるバンパイアハンターになれるたったひとつの特別なハンティングのコツ。これ知らないと逆にバンパイアに瞬殺されるぜ!』
を、私が実演し伝授してあげよう。
一瞬だけだぞ!
二度目はない!
この卒業式でしか人前では公表しないことにしてるんだから、絶対に見逃すなよ!」

(おわり)




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