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Stones alive complex (Libyan Desert Glass)

伊賀の忍者、影丸が放ったいくつもの手裏剣は複雑なカーブを描いて新月の闇に霞む森の木立を避け。

暗闇の中を疾走していた甲賀のクノイチ、蝴蝶へと正確に飛んできた。

蝴蝶はうっすら笑みさえ浮かべながら、振り袖で影丸の手裏剣をすべて払い落とす。

が。
時間差で飛んできた手裏剣がひとつ、蝴蝶の髪留めを狙い通りに切り裂いた。
第二波を予想して、蝴蝶は瞬時に進路を直角に変える。

(やはり。振り袖では、いつもの忍び装束とは勝手が違う・・・反応がわずかに遅れますね・・・)

結っていた蝴蝶の長い髪が扇のごとく広がり、
闇に紛れ姿を隠してる影丸の高笑いが響いた。

「ふはははは!
そっちの髪型の方がよく似合うぞ!」

蝴蝶は、ぷうっと頬を膨らませ大きめの木立の頂点まで駆け上がり、勢いを殺さず空中へ飛ぶ。

「甲賀忍法!
朧月夜(おぼろづきよ)!」

蝴蝶がそう叫ぶと。
真っ暗闇の新月の空に、
ほのかに輝く満月が現れ。
森が、ほんのり明るくなった。

「ほほう!」
月明かりで姿があらわになった影丸は、蝴蝶を追いかけ枝から枝へ飛び移りつつ、感服の声をあげる。
「これは、幻術の一種か?
やるな!甲賀の蝴蝶よ!」

影丸も負けじと手裏剣を次々放つが、今度は蝴蝶を狙ったものではなかった。
手裏剣は不気味な形をした木々へランダムに命中。
影丸は不敵に唱える。

「伊賀忍法!
百花錯乱!」

手裏剣が命中した木立から、それが針葉樹だろうが枯れ木であろうが、枝の先から薔薇の花が咲き始めた。

「ほほほ!
影丸様ともあろうお方が、その程度を忍術と呼んでおられるとは片腹痛しですね!」

蝴蝶が振り袖を振り回すと、
黄金色の金粉が撒き散らされた。

「甲賀忍法!
千万本桜!」

金粉が降りかかったそのあたりの木立すべてに、
その木の種類に関わらず満開の桜が咲き始めた。

「うぬぬ。
敵ながらアッパレだ!蝴蝶よ!」

押され気味と感じたか影丸はマジ顔となり。
胸の前へガシッと腕を突き出して、複雑な印を結んだ。

「伊賀忍法!
竜星虎翔!」

夜空の星々が突如、地上へ降ってきて、
森の上をぐるぐる走り出した。
もちろん、物理的な大きさで降ってきたのではなくて見た目の大きさで降ってきた。

この星々の華麗なるイルミネーションにより、あたりはお祭りのごとくな明るさとなった。

「いよいよ本領発揮というところですか影丸様?
蝴蝶も負けてはいられませぬ・・・」

蝴蝶も、しなやかな指を組み合わせ印を組む。

「甲賀忍法!
暗鏡止水!」

伊賀と甲賀、ふたつの国の忍者が激しく行き違う森の中央から泉が湧き出し、みるみるうちに小さな湖ができた。

「ふははっ!見事なり!
だが!
まだまだこちらも忍術のネタは持っておるぞ!
伊賀忍法!
狂亀流舟!」

その湖の底から大型トラックほどのサイズをした亀が浮かんできた。

「さらにだっ!
伊賀忍法!
暗中模索!」

森の木々の枝(薔薇と桜付き)がするする伸び、何百本もの腕の重なりとなる。
逃げ回る蝴蝶を、その花籠のようになった腕の網であっけなく捕えると、湖に浮かぶ大亀の甲羅へゆっくり落とした。

亀の上で蝴蝶は、呆然とする。

忍術勝負の圧勝を確信した影丸が、身動きしなくなった蝴蝶のすぐ横に降り立ってきた。

「仕上げだ。
伊賀忍法!
術の名は、かなり苦しいが、
麗美暗硝子(リビアングラス)・・・!」

先ほどの影丸の忍法、竜星虎翔で走り回っていた星々が、おぼろ月を取り囲むように集まり。
夜空でハートマークの形になった。

それをうっとり眺めた蝴蝶は、もじもじして、この夜のためにわざわざ着てきた振袖の裾を亀の甲羅へ広げ、横座りする。

影丸も傍らに座ると、蝴蝶の細い肩を柔らかく抱き寄せた。

蝴蝶は、胸元から竹水筒と笹包みを取り出した。
笹包みをほどき、包んできたふたつの握り飯を指さす。

「こっちが梅干しで、
こっちがオカカです・・・」

「梅の方をもらおうか」

影丸は蝴蝶が作ってきた夜食をほおばる。

「うむ!
甲賀の梅は、上手いのう!」

その時、忍術ではない自然の風が吹き。
薔薇と桜の花びらが、ふたりの回りで踊り始めた。

この。
公では互いに敵対する忍者集団に属しながらの、
影丸と蝴蝶のお忍び初デートは。
抜群のロケーションスポットに忍術セッティングされた湖面を穏やかに見下ろす、おぼろ月(幻術製)だけが優しく見守っていた。

(完)








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