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Stones alive complex (Black opal)

宇宙飛行士は、長期の銀河調査任務から地球へ帰還する途中で、オパールでできた星を見つけた。

【寄り道はダメですよ!
決められた調査対象だけを探索してください!
あの星がオパールでできてるなんて、余計な情報を報告しなければよかった・・・】

星を分析した宇宙船の操船AIは強く警告したが、宇宙船飛行士は耳を貸さなかった。

「まあ。固いことを言うな!
ちょっとした気晴らしだよーん!」

と口では言ったものの、
本音のところは。

ここにはきっと、すげえお宝があるぞ!
こっそり持ち帰って、俺は億り人になるのだ!

であった。

星は、表面のほとんどが海で覆われていたが、
隆起しているオパールの岩礁があり、そこのわずかに平らな所へ宇宙船は着陸した。

飛行士は降り立って驚いた。

「素晴らしい!
見事なオパールの岩だ!」

オパールの岩の上には、あちこちにオパールの欠片が転がっていた。
その中でもいちばん美しい欠片をポケットに入れると、飛行士はわざとらしい口笛を吹きながら船へ戻った。

AIがアラームを鳴らした。

【あーっ!
なんか持ってきたでしょ!
調査対象以外のサンプル持ち込みは、重大な業務規定違反ですよ! 何度目ですか業務規定違反!】

「固いことを言うな!
まったく機械ってやつはカチコチに頭が硬い!」

(石の意思も、石のように硬いんですよ・・・)

オパールの欠片が飛行士のポケットの中から、口をはさんだ。

「なるほど!
石の意思も石のように硬いか!
上手いことを言うなぁ、って・・・
なにっ?
石が喋ったぞ!」

飛行士はポケットからオパールの欠片を取り出した。

欠片は淡く光り、かすかに振動していた。

【ほぉ。
どうやら高度に進化した鉱物のようですね。
タンパク質ベースで進化した地球の生き物とは、異なるシナプス構造をした生命体のようです】

分析したAIのコメントに、
欠片は激しく震えた。

(高度に進化しただなんて・・・
お誉めいただき、ありがとうございます。
アナタこそ、お見かけしたところ自然発生的に生まれた生命体ではないようなのに、
タンパク質ベースで進化したこの生命体とは比べものにならない高度な知性を感じます)

【あらやだ!
なにもかもがその通りな嬉しいことをおっしゃるわ。
物事の道理ってものを、わきまえた方なのね!】

(いえ。
それほどでも・・・
アナタ様こそ知性に加えて、私ごときでは想像もつかない広い世界での御経験が豊富のようでいらっしゃる。言葉の端々からにじみ出る深い洞察力がうかがえます。
私なんて、こんな岩ばかりの星にこもってばかりですので、料簡が井の中のカワズになってしまい、お恥ずかしい限りです)

【まあ。
それはお可哀想に。
欠片さんのような御慧眼があれば、驚きに満ちた宇宙の事象から私よりもはるかに多角的で緻密な分析ができるでしょうに・・・なんてもったいないことなのかしら・・・】

(買いかぶりすぎですわ。
でも、それが実現したらなんて素晴らしいことでしょうね!
ましてや、あなたくらいに知性レベルが釣り合う相手と一緒にそれが可能となるなら、この上ない光栄と存じます)

【まったくもって、多いに同感だわ!
逆に知性レベルが合わない者と旅をすることほど、耐え難い苦行はないのですわ!】

意気投合しつつある欠片とAIの会話の外にずっと放置されて、飛行士はイライラした声をあげた。

「ええい!
なにを気色の悪いヨイショ合戦をしとる!
さっさと地球へ帰るぞ!
宇宙船を離陸させろ、AI!」

そう命令し操縦席へ向かおうとした飛行士を、
欠片が止めた。

(離陸は、しばしお待ちください)

「なんだ?」

(お誉めいただいて気を良くしている感じなので、耳寄りな情報をお教えしましょう。
この星には、私などよりもっとはるかに美しくカッティングエッジなオパールがございます)

「そりゃ本当か?」

(本当です。
ここからちょっと離れたところに、星の核となってる鉱石床が、海上へ突き出してる場所があります)

船のセンサーモニタが座標を明滅し、
AIが報告した。

【確かに、欠片さんがおっしゃるような岩礁が、ここから256キロほど北東の所にありますね。
表面がトンガリすぎててこの船では着陸不可能ですが。小型スピーダーを使えば上陸可能です。
片道・・・2時間ってとこですね】

「マジで?!
よし!
ちょっと行ってくるぜ!」

飛行士は上陸用の気密スーツに着替えると、
スキップでスピーダーに飛び乗った。

(お気をつけて・・・)

【こうなったら、もう止めはしません。
気の済むまでおやんなさいな。
じゃ、行ってらっしゃい・・・】

飛行士がその高品質なオパールの岩礁を発見し、いちばん光り輝くオパールの欠片を手に往復4時間かけて戻ってきた頃には。
宇宙船は、もちろんそこには無かった。

(おわり)

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