林檎の樹 / ゴールズワージー

知らない時代、知らない場所で、知らない植物がたくさん生えていて、知らない鳴き声が空気を掠め、知らない香りが漂い、知らない言葉で溢れていて、知らない気分に酔いしれる。

全て"知らない"ことなのに、私の頭の中ではキラキラと輝くこなが、ほんの少しの風で舞う様子が鮮明に描き出される。

清く美しく、そして儚く。

白い湯気に甘さが匂い立つハチミツ湯に、少しの生姜がピリリと辛い。

秘密の花園を思わせるほんの僅かな時間。

夢か現か幻か。

人の話声もいい音楽も一瞬のうちにしてなくなるが、一瞬のうちにして戻ってくる。

いつだか、こんな甘酸っぱい時期もあると思うと、胸がトゥクンと高鳴る音が聞こえる。

今はそんな音色も聞こえないと思うとちょっぴし寂しい。

長い夕暮れを感じながら眠りにつきたい。


11 「 林檎の樹 / ゴールズワージー 」


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