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「猫男」

猫みたいな男と 付き合った 居座られたと いっていい 転がり込んできて、 三日居たと思ったら 五日は家を空ける そんな だらし無さが 心地よいだなんて 夢追い人が好きだったハズが 彼は まるで夢の中の住人だ 「綺麗だよ。可愛いね。」 気持ちがいいとか 痛いとか でも確かに私を 満たしてくれる 隙さえあれば ふところに入るから  温かい なにも伝える必要はなかった 一度だけ 我儘いった 崩してほしい と いつも される側も 今日だけは 秋色の私の肌は もう

「眼帯の男」

*「煙草の女」から続いています。 その日 麻衣子は えらく疲弊していた。 昨晩あった イヤなこと  一瞬でもそれから逃れたかったのだ。 ただ それは無駄な試みだった。 結局は  忘れよう 忘れよう とすると  自分の中の其れが 図々しく居座るもので 返って その存在の大きさを 思い知らされるのだった。 わたしは ほんの少し 感傷に浸りたかったのね と 苦笑し 麻衣子は腹をくくることにした。 麻衣子はときどき煙草を吸う。 普段から吸うわけではないが、 煙草は すこ

「煙草の女」

聡はもともと 煙草を吸う女がキライだった。 特に 煙草の吸殻に着いた 口紅の跡を見るのが嫌だった。 でも喫煙所に居た その女は、 まるで聡の存在は無く 部屋で一人でくつろいでいるかのように 警戒心がなかった。 聡はゆっくりと煙草に火を点けて 女の横顔を見た。 顔の上半分 白い眼帯で覆った聡の残った左目は この上なく不恰好で、 俯いたまま 隙間から女の口元を盗み見る。 女は 煙草を吸うときに まるでキスを楽しむかの様な表情をした。 その女の顔に 聡はなんとなく気

トリック・オア・トリートは

フォークの背に乗せたライスをぎこちない手で寄せ集めながら不器用に口へと運ぶ。 むしろ少し前のめりになって口をフォークに近づけると云った方がいい。 僕の生まれた日は イエス・キリストの生まれた前の日で、 父さんはその日に呑んだくれてたって母さんが言ってた。 頑なに切り分けられたケーキに手をつけようとしなかった父。 それをなんとか取り持とうとする母。 白いご飯は茶碗で食べるのが一番美味しいんだと気づいたのは随分後で、 面接官にイヤミを言われて歯を食いしばった夜。