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魅惑のテルグ映画への招待

テルグ映画とは

 テルグ映画とは何でしょうか。インド映画の一種ですが、「インド映画」や「ボリウッド」は知っていても、「テルグ」という言葉に耳馴染みのない方は多いかもしれません。インドにはインド憲法で定められているだけでも22の指定言語があり、テルグ語は南インドで話されている言語の1つです。テルグ語で製作された映画は「テルグ映画」と言われ、通称「トリウッド(Tollywood)」としても知られており、その規模はインド映画産業の中で北インド・ムンバイ(旧ボンベイ)の「ボリウッド」に次いで2番目だそうです。2018年に日本でもヒットしたインド映画『バーフバリ』シリーズもテルグ映画です。本企画のご紹介の前に、少しだけテルグ映画についてお話しして参ります。

 どのような分野でもそうかもしれませんが、テルグ映画の魅力を簡潔に述べることは容易ではありません。その歴史を紐解いて行くと、様々な伝統文化の流れを汲みながら関係する諸外国からの影響を受けて発展して来たようです。現代へと綿々と紡がれて来た作り手たちの手になるその映画が、遠く離れた日本の地で今再び多くの人々に愛され始めています。観る人一人一人の心にそれぞれの感想があるのでしょう。

 リュミエール兄弟のシネマトグラフが1896年にインドに伝わってから、紆余曲折を経てインドでも自国の映画製作が行われ始めました。インド最初の映画監督とされるのは、ベンガルのヒーラーラール・セーンなのだそうです。インド映画の父と言われるダーダサヘーブ・ファルケーは、写真家やマジシャンなどの修行を経て製作した『ハリスチャンドラ王』を1913年にボンベイで公開しました*(ii)。
 一方、テルグ映画の父と言われるのはラグーパティ・ヴェンカイアーです。写真に関心の高い青年だった彼は、やがてロンドンで造られた始めた映写機を輸入し、活動映写のスタジオをインドやバングラデシュ、旧ビルマに開きました。マドラスに劇場を建て、製作会社を設立した後、1919年に初めての無声テルグ映画『Bhishma Pratighna』を製作したのだそうです*(iv)。


日本でのインド映画上映の広がり

自主上映会とは

 制作された映画が観る人のもとに届くには、様々な道を辿ります。ここで、日本国内でのテルグ映画やインド映画の上映に関する近年の歩みを少し振り返ってみましょう。

 1999年上映の『愛と憎しみのデカン高原』が、日本語字幕付で一般公開された初めてのテルグ映画でした*(i)。このように配給会社が日本国内へと配給するパターンの他にも、自主上映という方法が行われて来ました。これは、主に日本で生活していらっしゃるインド南部テルグ語圏ご出身の方々が故郷で封切られる最新映画を日本でも楽しめるように開催されて来たものです。有志の主催団体が本国から上映権を買い付け、映画館のスクリーンの1つを借り切り、大抵は1日のみ上映します。鑑賞料は劇場ではなく主催団体に支払います。満員御礼となった人気作品の場合は、また別の日に再上映することもあるそうです。テルグの方々の為の企画ではありますが、どなたでも申し込むことができます。字幕無しか英語字幕での上映です。

日本でのインド映画ブームと様々な上映会
 インド南部のタミル語圏で製作され1998年に日本でも公開された『ムトゥ 踊るマハラジャ』のヒットや、「ボリウッド」と称されるインド北部のヒンディー語圏製作映画の数々の一般公開などもあり、ヒンディー語、タミル語、マラヤーラム語などの最新映画の自主上映会に、日本人の参加も少しずつ見られるようになったそうです。
 また、国内の大学などの教育研究機関や博物館などの文化振興機関が主催したり場所を提供したりして行われる上映会のように学術関係者が紡いで来た歴史もあり、これらも多くの場合一般の方々がご参加できる機会となっています。1956年に第9回カンヌ映画祭で特別賞(ヒューマン・ドキュメント賞)を受賞し1966年に日本でも公開されたサタジット・レイ監督のベンガル語映画『大地のうた』のように、芸術性を世界的に高く評価される作風も、インド映画の流れの1つとして脈々と受け継がれています*(iii)。
 一方、日本人のインド映画ファンが主催する上映会も各地で産声をあげ、地道に続けられて来たそうです。映画を愛する人々の間でも様々な楽しみ方があるかと存じますが、インド映画を愛する有志が、静かに作品を鑑賞し堪能する回とは別に、大好きなスターの映画に敬意を払い感情を表す本場インドの映画鑑賞の雰囲気を日本でも味わえるよう工夫しました。2001年には大阪にて、『ムトゥ 踊るマハラジャ』の主演として人気を博したラジニカーントさんの主演作『バーシャ!』の上映が、初めての「日本流マサラシステム」として開催されました*(1)。また、こちらはマサラシステムではなく一般のルールに則った鑑賞形態となりますが、日本で開催される種々のインド映画祭*(2)では、多様なジャンルの何本もの新作と数本の過去の名作を日本語字幕付きで鑑賞することができ、こうした催しも盛況だそうです。

自主上映会「魅惑のテルグ映画」の始まり

テルグ映画ファンを増やした『バーフバリ

 さて、日本で公開されたテルグ映画の最新ヒット作といえば、『バーフバリ 伝説誕生』と『バーフバリ 王の凱旋』が記憶に新しいのではないでしょうか。テルグ映画は、ヒンディー語やタミル語の映画に比べるとまだ日本での配給作品が少なく知名度も高くはありませんが、2017年に公開された『バーフバリ』シリーズが徐々にヒットしロングランを達成し、各地での応援上映の開催、完全版やIMAX版などの公開、劇中音楽の大半が収録されたサウンドトラックCDの発売、監督、プロデューサー、俳優陣の来日などを通して、テルグ映画やテルグの文化への関心を持つ人々も増えて行きました*(3)。2018年夏には、S.S.ラージャマウリ監督の旧作で『バーフバリ』の原点と言われる『マガディーラ 勇者転生』が全国規模で公開されました。

2019年、待望の上映会が開催

 こうして少しずつファンを増やして来たテルグ映画ですが、これまで、俳優や女優のファン、監督や製作陣のファン、テルグ映画のファンたちは日本国内でどのように過去のテルグ映画を観て来たのかというと、正規のDVDやブルーレイディスクを輸入販売している日本の会社から購入したり、インドの有料映画配信サイトに登録したりといった方法です。こうした方法でテレビやパソコンやスマートフォンなどの画面で過去の作品を楽しむことができますが、映画館で観ることができれば、きっとそれは格別の感想をもたらすでしょう。
 2019年、『バーフバリ』シリーズの主役を演じ慈愛と威厳に満ちた優美で清廉な魅力で観る人々の心を虜にした俳優プラバースさんのファンの期待に応え、長年テルグ語圏ご出身の方々のためにテルグ映画の自主上映を主催していらした団体インドエイガさんが日本のプラバースさんのファンの有志と協力し、プラバースさんの出演した過去の名作をスクリーンを借り切って上映する1日限りの夢の上映会を開催しようという運びとなりました。これが「魅惑のテルグ映画」の始まりです。
 これからも本上映会を通して、少しずつテルグ映画をご紹介し、ご関心をお持ちの方が劇場で大切な作品と出会える機会を作って参りますので、どうぞよろしくお願いいたします。


付録

注釈:
*(1) 日本人ファンの携わる上映会の歩みや初めてのマサラ上映開催、その根底に流れるインド映画や今に残るイベント上映会への想いなどについて、こちらのインタビュー記事で紹介されています。
◆作品に「愛」を持ってマサラ上映を!日本のマサラ伝道師が語る、インド映画への想い。/クロフネ編集部 様
https://crofune.com/3497/

*(2) 日本国内で近年開催されたインド映画祭
 ※本年以降の開催につきましては各公式サイトでご確認下さい。
SIFFJ (South Indian Film Festival Japan)
IFFJ (Indian Film Festival Japan)
ICW (Indian Cinema Week)
 過去には、松岡環さんによる数々の映画祭の試みや、「サンジャイ・ダット映画祭」など監督や俳優を特集した映画祭も開催されたそうです*ii。

*(3)『バーフバリ』シリーズヒットの現在までの経緯については、こちらの記事で紹介されています。
◆『バーフバリ』旋風に熱狂した1年をマヒシュマティ国民(ファン)が振り返る!/BANGER!!! 編集部 様
https://www.banger.jp/movie/5780/


参考文献:
*i: 『バーフバリ 王の凱旋 〈完全版〉』パンフレットp.27-28
『愛と憎しみのデカン高原』(原題: "Preminchukundam Raa")を配給なさった松沢靖さんの寄稿文「幻のテルグ映画を求めて」
デビュー前のラーナー・ダッグバーティさんについても言及されています。

*ii:『インド映画への招待状』著者: 杉本良男 出版: 青弓社 発行: 2002年12月

*iii: 『アジアのハリウッド グローバリゼーションとインド映画』著者: 山下博司、岡光信子 出版: 東京堂出版 発行: 2010年3月

*iv: "Indian Cinema Through The Century"
Published in 2015 by Publications Division

"The Secret Politics of Our Desires - Innocence, Culpability and Indian Popular Cinema"
Edited by Ashis Nandy
Published in 1998 by Manzar Khan, Oxford University Press

掲載作品
本文中の登場順に記載
凡例: (アルファベット表記原題/原語/監督/インド公開年/日本一般公開年)

『ハリスチャンドラ王』(Raja Harishchandra/英語・ヒンディー語字幕/ダーダサヘーブ・ファルケー/1913/未公開)

『Bhishma Pratighna』(意味: The Bhishma's Vow/無声映画/ラーグパティ・ヴェンカイアー/1921/未公開)

『愛と憎しみのデカン高原』(Preminchukundam Raa/テルグ語/ジャヤント・C・パーランジ/1997/1999)

『ムトゥ 踊るマハラジャ』(Muthu/タミル語/K・S・ラヴィクマール/1995/1998)

『大地のうた』(Pather Panchali/ベンガル語/サタジット・レイ/1955/1966)

『バーシャ!踊る夕日のビッグボス』(Baasha/タミル語/スレーシュ・クリシュナ/1994/劇場一般未公開)

『バーフバリ 伝説誕生』(Baahubali: The Beginning/テルグ語/S.S.ラージャマウリ/2015/2017)

『バーフバリ 王の凱旋』(Baahubali 2: The Conclusion/テルグ語/S.S.ラージャマウリ/2017/2017)

『マガディーラ 勇者転生』(Magadheera/テルグ語/S.S.ラージャマウリ/2009/2018)


謝辞

 本稿の執筆にあたり、多くの方々にご助言頂きました。掲載させて頂いた記事の執筆者の皆様にも掲載をご快諾頂きました。この場をお借りしまして、御礼を申し上げます。細心の注意を払いましたが、本稿の記述に不備がございましたら、偏に執筆者である私共の責に帰するものです。お気付きの点がございましたら、お手数をお掛け致しますが、魅惑のテルグ映画 第三回公式Twitterアカウントまでご意見をお寄せ下さい。
https://twitter.com/RanaScreeningJP

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