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【あなたの基本力が見られている】

感動と学びを世界中にみやざき中央新聞がおおくりします

 先日、とある中学校のS教頭先生からこんな話を聞いた。

 学校には、文具や教材、旅行会社、生命保険等の営業の人がやってくる。これまでたくさんの営業マンに対応してきたS教頭は、あることに気が付いた。

 営業の人が職員室に出入りするとき、お辞儀をする人しない人がいる。お辞儀も一旦立ち止まって丁寧にする人もいれば、軽く会釈程度に頭を下げるだけの人や、歩きながらする人もいる。

 そのうちS教頭は、何をセールスに来たのかではなく、その人の姿勢を見るのが楽しみになってきた

 そして、機会があれば生徒たちに「君たちを見ている人が必ずいる」と教えるようになった。

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 何十年も前に『子連れ狼』というテレビドラマがあった。

 拝一刀(おがみ・いっとう)という男が、5歳くらいの息子の大五郎を乳母車(箱車)に入れてさすらいの旅をしているドラマだった。

 彼の職業は殺し屋である。子どもを連れていることから、いつしか人は彼を「子連れ狼」と呼ぶようにようになった。正真正銘、元祖イクメンである。

 拝一刀は元々徳川幕府の家臣で、同じ家臣の柳生一族と対立していた。

 ある日、柳生一族の仕掛けた陰謀にはまり、反逆罪を言い渡され、拝一族は皆殺しにされる。一刀も大五郎と共に切腹を命じられるが、一刀は大五郎を連れて江戸から逃亡する。

 その後、得意の剣術を生かして殺し屋をしながら、柳生一族に復讐する機会を狙っているのだった。 

 とても印象に残っている場面がある。あるとき、大五郎は父親と離れ離れになった。迷子になった大五郎を、農夫が見つけ、家に連れて帰った

 その夜、「お前、どこから来た?」とか「おっとうやおっかぁはどうした?」と聞くのだが、大五郎は無言でご飯を食べる

 そのとき、農夫は女房に言う。「この子は武士の子だ」と。「なんで分かるんだい?」と聞き返す女房に言った。「姿勢を見れば分かる」と。

 大五郎の腰骨と背筋がしっかり立っていたのだ。 

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 もう一つ。ミス・インターナショナル日本大会の審査員をしている人からこんな話を聞いたことがある。

 その大会に出てくるような女性たちは、みな美しく、体型も笑顔も品性もほとんど差がない。しかし、大きな違いが見て取れる場面があるという。それは、審査員の前に出てパフォーマンスをしているときではなく、自分の出番が終わって、後ろの席に座っているときの仕草や姿勢なのだそうだ。見られていないと思っているときに素の自分が出てしまう。

 では、24時間緊張していなければならないのかと言うと、そうではない。

 誰も見ていないところでも、無意識の状態でも、普通に振る舞っていても、腰骨が立っている靴を揃えるあいさつをするゴミを拾う、そんなことが自然にできていればいいのだ。

 これを「基本力」という。

 冒頭に述べた出入り業者の営業マンも、『子連れ狼』の大五郎も、出番が終わってホッとしているミスインターナショナルの出場者も、見られていたのは「基本力」だった。

 それは、誰も見ていないという状況の中でも、見られているかのようにふるまえる所作。それができている人は、誰も見ていないところでもいい姿勢、いい笑顔、いい仕草をする

 営業マンは営業に出る前に徹底的に商品知識を勉強するだろう。それは当たり前のことをやっているだけだ。しかし、お客様の心に残るのは商品説明ではなく、その人の自然な笑顔であったり、丁寧なお辞儀であったり、ちょっとした仕草や気配りであったりする。

 こんな話を聞くと、半世紀も生きてきたのに、まだまだ「基本力」が身に付いていないことを反省する今日この頃である。
    (みやざき中央新聞 2014/12/08号 水谷もりひと 社説より)

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