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実践小説!!野宿&ヒッチハイクで九州一周4/6

 ゆっくりと支度を整え、車が通りそうな国道まで、歩いて向かった。宮崎県のはずれの道をとぼとぼと歩いた。時折、持参して来たカメラを傾け、町の風景を記録して回った。

 郊外だからか、目立ったお店もなく、小さな商店で、パンとコーヒーを買い、人通りのある通りまで歩いた。

 地図と標識を見ながら国道に向かった。

 国道についてみると、ある程度の車の通りがあり、僕は『宮崎市内方面』と目的地をスケッチブックに書き、ヒッチハイクを始めた。

 ヒッチハイクを初めてまもなく、一台の車が止まってくれた。

 乗用車には、2人の優しさそうな老夫婦が乗っており、僕の身なりを見てか驚いた顔をしながら、途中までしか行かないけど、大丈夫かと尋ねながら、車に乗るように促してくれた。

 後部座席にリュックと共に乗り込み、自己紹介をさせて貰った。

 二人の夫婦は、もともと学校の先生をしており、子供が僕より少し上の年齢だとの事だった。2人の息子は、関西と福岡で仕事をしており、年末には帰ってくる仲のいい家族だった。

 今日は、定年をして特にする事も無いので、夫婦ふたりでドライブをしながら、友人の所へ遊びに行く所だった。定年をしてからというもの、二人で一緒に特に用事がなくっても出かける週末が多く、本当に仲の良い夫婦という感じだった。

 僕がヒッチハイクと野宿で九州一周をしている事に、ものすごく驚いたようで、ちゃんと食べれているのか?寝るときは大丈夫なのか?などすごく心配してくれた。

 折角だから、行きたい所は無いかと聞いてくれた。遠くまでは行けないけど、近い所なら、送って行ってくれるとの事だった。

 僕は、気の優しい二人が行った事が無い所に行きたいと思い、持参していた地図も元に、それほど遠くなく、観光名所になっていそうな所を何箇所か上げ、波で削られた岩が名所の海岸に行くことになった。

 思っていたよりも、観光客の多い海岸で、コーヒーを買ってもらい、3人でぶらぶらと歩いた。2人は、僕を子供のように気にかけてくれ、一緒に写真を撮った。

 今日は偶然、車に乗ってくれたから、素敵な場所にこれたとすごく素敵な事を言ってくれた。

 「こうやって、何かのきっかけで遠回りする事も必要だね。学校も遠回りする練習かなって思う時があったの。時間がたっぷりある中で、遠回りしているような事が、その子の将来に繋がっていたり、その子を作り上げている事があったように思うわ。」

 と奥様が優しそうに語ってくれた。

 宮崎に入ってからのヒッチハイクは順調だった。

 その後も、若い子供連れの夫婦に拾っていただき、キムタクが来るという海岸に連れて行って、町を案内してもらった。温暖な気候の通り、優しい人ばかりだった。

 あまりにも一方的な優しさを受けすぎて、僕の感情のコップもいっぱいになっていた。

 夕方になり、辺りも薄暗くなり初めている頃、今日最後とのヒッチハイクをする事にした。あまり遠くない、公園のありそうな町の名前を書き、ヒッチハイクを始めた。

 初めて、5分もしない頃、一台の車が路肩に止まってくれ、この旅に出て、初めての一人の中年の女性が乗せてくれた。

 約1時間程度の道のりの中、なんでヒッチハイクに出たのか、どこから出て、今日が何日目なのか、寝泊まりはどうしているのかなど話をした。

 女性は、仕事を終え、これから家に帰る所だという事だった。

 「今日泊まる所が無いんだったら、家に泊まっていく?」

 突然の誘いに、女性の家に流石に見ず知らずの僕が泊まるのは、と思っていたら、今日は旦那もいるし、同い年ぐらいの子どもたちもいるから、構わないよとの事だった。

 旦那さんの了承を得られたらとの事で、途中携帯で旦那さんに電話した所、すんなり了承を頂き、今晩は家に泊めて頂く事になった。

 「旦那は帰りが遅いから、先にお風呂に入っていたら?戻ったらお酒を付き合わされると思うし」という事で、優しさに甘えて、僕は出会って2時間も立たない方の一番風呂に入らせて頂いた。

 お風呂を上がり、テレビを見ながら、過ごして居た頃、旦那さんが帰ってきた。

 「おー!九州一周してるんだって?今日は一緒に飲もうか!」という第一声の元、明るさと男らしさを持ち合わせた、旦那さんが帰ってきた。

 旦那さんは自衛隊の方だった。自衛隊の訓練でも、何キロもの道をゴールを決めずに歩く訓練があるそうだ。歩く時の一番つらい所は足の裏、という経験者しか分からない対処法を色々と教えてくれた。靴下を2枚に履くことで、小さな靴の中の擦れを緩和する事や、豆が出来た時にテーピングの巻き方、ろうそくか石鹸を巻いたテーピングの上から塗ることなど、実践的なテクニックを教えて貰った。

 夕食の時間になると、地元の焼酎を振る舞ってくれた。一緒に焼酎のお湯割りを飲みながら、いろんな話をした。

 なんで九州一周をしようとしたのか?という問いには、うまく応える事が出来なかった。

 夕食には、子どもたちは顔を出さなかった。

 男らしさあふれる旦那さんが、少しだけ子供の話してくれた。仕事ばかりでほとんど家に居なかった自分が悪いのだが、家の子供達は学校も退学して、仕事もせずにふらふらしていると言っていた。 僕が来た事で、子どもたちに少し変化があれば良いと思って、僕が今日泊まる事を了承してくれたとの事だった。

 「俺みたいな頑固な親父があーだこーだ色々とお節介しても子供達には嫌われるからな。俺の時代と違って、みんながみんなそんなに上を目指してるやつばっかりじゃないんだよな。」

 「後で、少しで良いから子どもたちと話してくれ。同じぐらいの年齢で色々話もしやすいだろうから。」

 と託された。

 自分の腕っ節で、生きてきた雰囲気を醸し出している旦那さんから頼まれた事が、すごく嬉しかった。

 僕はすぐに2階にあがり、子供部屋へと向かった。頂いたジュースを片手に子供部屋をノックして、部屋に入った。

 部屋には、18歳の長男と、16歳の次男がおり、部屋の中には、タバコの煙が充満し、髪を染めた2人が寝転がった格好でゲームをしていた。

 「ちょっと一緒に良い?」と問いかけ、部屋に入った。二人の子供は、僕が来ている事は知っていたようで、警戒心を表しながらも僕を部屋に招き入れてくれた。

 説教するでも、説き伏せるわけでもなく、僕は一緒にゲームをする事にした。ただ目の前のゲームの話をした。

 注意もせず、一緒にタバコを吸った。ただ遊びに来た親戚の兄ちゃんぐらいの感じで、普通に一緒に過ごした。二人は、少し警戒心をとき、なんで九州一周してるのか、なんでヒッチハイクなのか?など質問をしてくれるようになってきた。

 僕はちょっとおちゃらけながらも、なんとなくであった自分の中の、今回の旅について少し話してみた。

 「学生の頃もそうだったけど、社会人になってからも、なんか自分でこれ!と決めて、自分で決めた事を思った所までやり抜く事が大切なんだな〜となんとなく気づいて来たのかな。

 特に社会人になると決めた事を守らなくても、普通に生きていけるけど、そのままじゃ行けないな〜という事にも裏では気づいてて。

 今まで、自分で決意した事とかを途中で、理由を付けて投げ出す事が多かったから、何か今後の自分を固めるために、達成させたいなと思った。」

 「なんか、いつもしっかりと考えてから動くタイプなんだけど、たぶん根本は馬鹿だからね。考えて、言い訳もして、結局動かないってもったいないな〜って思って、今回は、悩むのはやめよう。思いついた事をすぐにやってみよう!って思って。

 実行する事が何か成功する事の一歩目なのは間違いないかな〜って思ってね。

 まぁ、その思いつき自体が馬鹿って言うんだろうけどね。」

 二人の子供達は、照れながら、はにかみながらも話す僕の話をゲームの手を止め真面目に聞いてくれた。

 僕もなんとなく感覚で思っていた事を初めて人に話して、気持ちが良かった。

 「1階の所に布団用意しといたから、今日はゆっくり寝てね。仏壇の前だけど、いつもの公園と違って、ゆっくり寝れると思うから。」

 という、声で奥さんが部屋に入って来たので、3人での話はそれまでになった。

 なんとなく照れくささも手伝い、二人の子どもに「じゃあ、頑張ってね。」と伝え、僕は用意して頂いていた、布団へと向かった。

 仏壇のある布団を敷いて頂いた横の部屋では旦那さんが、テレビを見ながら焼酎のお湯割りをまだ飲んでいた。僕は、もう一杯だけご一緒してもいいですか?と声を掛け、一緒にもう一杯頂く事にした。

 旦那さんは、子供達とどんな話をしたのかは聞かずに、

 「俺は、今まで自分に厳しくする事が正しいと思って、子どもたちにも厳しく接して来たんだよ。自分に厳しい選択をしたほうが、ずっと自分で自分の事を好きで居られる気がするんだけどな」

 とだけ言い、後は、テレビのニュースから流れてくる、野球を見ていた。

 テレビを見ながら、一杯飲み干した頃に、布団に入った。

 旦那さんは、テレビを見ながら毎回コタツ、このまま寝るから、との事だった。

 お酒も手伝って、僕はすぐに布団に入り、寝入ってしまった。久しぶりの固くなく、下から僕の熱を奪わない布団が心地よく、深い眠りだった。隣から聞こえてくる野球ニュースの音と、人のいる雰囲気にすごく安心感を覚えて、気持ちのいい眠りだった。

 朝、目が覚めると、朝食を用意してくれていた。温かい味噌汁とご飯を頂き、旦那さんが出勤する前に、一緒に庭で写真を撮った。

 ニコニコと笑いながら、旦那さんが僕と堅い握手をしてくれた。ゴツゴツしている手は、暖かくて力強くて、たくましかった。

 九州一周が達成したら、地元の焼酎を送る約束をして、住所を聞き、奥さんに近くの道の駅まで送ってくれる事になった。

 何度も、何度もお礼を言い、見えなくなるまで見送った。

 昼食に食べるようにと手渡されたおにぎりがまだ人肌のように暖かく、1人になりベンチに腰掛けるとその暖かさを更に感じることが出来た。優しい家族と話した事を反すうしながら、少しうるうるとなった目を乾かすように、海沿いのベンチの風で乾かした。

【続きは 5/6へ】

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