季節の移ろい、ふわっと香る


卒業シーズン到来。
通学路、友人と帰り道を歩きながら甘い香りに気がつく。
沈丁花の白い花が顔の真ん中を赤らめながら開き始めている。
春の気配も少しあるけれど風はまだまだ冷たかったりして、でも確実に季節が変わり始めていますよと教えてくれる香り。
友人と何故かジンジャッキーと呼んでは発見を喜んでいた沈丁花。

いつもふと香りがしてから姿を探す。
そして卒業の日のいつもと少し違う通学路の光景を思い出す。



私が生まれた季節は秋。
夏の気配もすっかり鳴りを潜めて「秋」と言い切ってよいかな、という頃。
鼻先に懐かしい香りが漂うと慌てて辺りを見渡す。どこかの庭先の塀の向こうにチラッと淡い橙色が見え隠れしている。
見つけたぞ、また会えたね。
好きな季節、大好きな香り。
金木犀の木は地味で、いつでもあの香りがするまで存在に気づかない。
一つひとつの花が小さくて可愛いらしい。
それが仲良く並んでいて、道端に落ちると綺麗な色の絨毯のようになっているのも好き。
さぁ、これから秋が深まりますよ。
寒いのが苦手な私は金木犀の季節で止まればいいのにねって思う。



まだ寒い頃に開く桜がある。
今住んでいる場所には河津桜とも違う桜が寒さに負けず満開で開花の期間も長いらしい。

でもお花見といったら、ささやかで良いから暖かい陽射しの桜の下で一杯傾けたいな。
桜の花は色も控えめで香りだってしないのに、何故あんなにも人のココロを浮き足立たせるのか。
蕾が膨らみ始めると今か今かと皆が桜の様子を見守り、満開になって雨風吹けば花は落ちないかと気を揉んでいる。
はらはらと花びらが散り行くのも風情があるねと、うっとり眺め桜の花の存在感には毎年頭が下がります。

私は秋に感じる桜の香りが好き。
花が終わり葉桜も楽しんだ後には存在を忘れられがちな桜の木。
すっかり秋も深まった頃、雨上がりの園庭を埋め尽くした桜の落ち葉はしっとりと湿って香っていた。
竹箒で掃き集めると桜餅のあの香りをもっと熟成させたような深く豊かな香りがする。
それに気づいてから秋色の桜並木の下で深呼吸するようになった。
ここにも好きな香りがあったんだ。これからもっと寒くなるね、と冬支度を思いながら道端の落ち葉を踏んでみる。

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