みや子

現実と虚構をいったりきたり。 都内在住、おひとり様好き独身アラサー女子。 感じたこと…

みや子

現実と虚構をいったりきたり。 都内在住、おひとり様好き独身アラサー女子。 感じたこと、思ったことを気の向くままに。 連載小説「桜隠し」不定期 火曜日更新。 ※著作権は放棄しません。 https://twitter.com/miyakofujii3807

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  • 桜隠し

    長編小説「桜隠し」 この関係をなんと言えばいいのか、この気持ちをなんと表せばいいのか、僕達は知らなかった。 毎週火曜更新

  • 七十二の景色

    二十四節気七十二候。 それは四季の移り変わりを様々な視点から捉え、短文で表したものです。 ほんの小さな兆しと共に過ごす様々な人たちの“あるかもしれない”日常を楽しんで頂ければ幸いです。

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“ズレ”違う男女〜飯でもどう?を了承するリスク〜

日常会話に潜む罠 『また今度ご飯でも!』 人付き合いする中でまぁまぁの頻度で登場するこの台詞。 例えば ・愛想笑いをしながらの先輩や後輩との会話終わりのタイミング ・特に親しいわけでもない女友達との別れ際 ・異性との探り合いをしながらの会話の最中 などの場面で使われるでしょう。 その約束は本当に果たされることもあれば、建前としての役割を無事果たして霧散することもある。所謂“本音と建前”、その両方で使える言葉と言えます。 この慣習が良いか悪いかはひとまず置いておいて…学

    • 好き嫌い

      とんかつ定食についているキャベツが嫌いだ。 控えめな色をしている割に、主役の後ろに無駄に幅をとりながらそびえたち、その存在を主張してくる。 “とんかつ定食”の文字面に“キャベツ”なんて一言も入っていないのに、なんなら“とんかつ”より皿上の面積を占めている。 彩りのため、栄養面でのつけあわせ、その他諸々の理由で定食にキャベツが必要な事はわかっている。 わかっているけど、好きかどうかはまた別の話である。 「残したら?」 不意に上から降ってきた声に顔をあげる。 薄暗い店内の

      • 紅花栄

        白を基調とした清潔感漂うフロアには様々な人が行き交っている。 綺麗に髪を纏め上げるお姉さんたちに微笑みかけられ、それに曖昧に会釈を返しながら、先を行く友人の背中を追う。 すっと吸い込まれるようにフロアの一画に入っていった彼女を見失わないよう、少しだけ足早に人波をすり抜ける。 「いらっしゃいませ。」 四方からかけられる声に軽く頭を下げながら、綺麗に陳列された彩を眺める。 その一つを手に取ると、ほんのり柑橘系の匂いがした。側を通った店員のお姉さんからは、ふわりと甘い匂い。 そ

        • 蚕起食桑

          「お姉ちゃん…。」 八の字に眉を下げながら振り返る妹の顔を見て、それはそうだろうな、と軽い同情心を覚えながら手にしていた陶器のカップをソーサーに戻す。 外は午前中とは思えないほど暗く、ザー、という音が室内に届くほど強烈な雨が窓を叩いているが、何かしらのクラシックの曲だろうか…ゆったりとした音楽が流れ、シャンデリアが輝くこの部屋はまるで世界から隔離されているかのように静かで穏やかな時間が流れている。 鏡の前で何度も体を捩りながら1着ずつ吟味し、4着目まで着たところで、ついに妹

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          竹笋生

          緩やかな斜面を下る。 足元の土はふかふかしていて、柔らかい。 寝転んだら気持ちがよさそうだな…と考えながら先を行く背中を追いかける。 「お、あったぞ。」 手招きする父の元に駆け寄り、隣にしゃがみ込む。 落ち葉を払うと、ちょこんと顔を出す緑色。 「まだ小さいよ。」 「いや、これくらいがいいんだよ。」 父は私を数歩下がらせると、手にしていた鍬でぐるり、円を描くように落ち葉を払いのけ、大きく振りかぶった。 鍬に掘り返され、その勢いに負けて飛び散った土を、顔の前に交差した腕

          蚯蚓出

          「…やっぱり三枝さんの資料は分かりやすくていいね…。」 まだほんのりと温かい、刷りたてのコピー用紙を手にした課長が隅々まで目を走らせている。ペラペラと紙を捲る音を聞きながら待つこと数分。顔を上げた課長の表情を見てほっと胸を撫でおろす。 「うん。問題なさそうだ。ありがとう。」 「いえ!むしろこんな時間まで付き合っていただいて、すみません…」 外はまだ明るさを残しているが、時計を見ると18時10分を指しており、退社時間を過ぎてしまっている。フロアに残る人影もまばらだ。 手

          蛙始鳴

          「おはよう!」 ここ最近ですっかり聞き慣れてしまった声に思わず嘆息する。 後ろから声を掛けられたなら、気づかなかったことにしてそのまま教室まで走ってしまうのに、わざわざ回り込んで目を合わされてしまえば無視するわけにもいかない。 「…おはようございます。」 「敬語じゃなくでいいよ?」 「いえ。先輩なので。」 軽く頭を下げてその横をすり抜けようとするも、踵を返した先輩にぴたりと張り付かれてしまう。 失敗だ。 「あの…何か?」 「ん?俺も次の教室があっちなの。」 「そうで

          牡丹華

          「唐沢くん!」 軽やかな声がする。 振り返った先、コツコツとヒールの音を響かせ花柄のワンピースの裾を翻しながら走る小さな人影を見つけ、足を止める。 徐々に減速し、軽く息を整えながらこちらに向かってくるその姿に性懲りもなく胸が弾む。 「斉藤さん、どうしたの?」 「あの、これ。引き継ぎの資料で渡しそびれてたのがあって…」 そういって差し出された水色の分厚いファイルを受け取ると、ずしりとした重み。 パラパラと中をめくると綺麗にファイリングされた資料と、そこに書き込まれた丁

          霜止出苗

          カチャリー… 静寂を壊さないよう、そっと鍵を回す。 確認のために一度だけドアノブをゆっくりと引き、施錠を確認してからその場をあとにする。 寝静まったままの町はとても静かで、軽く地面を蹴る音と浅い呼吸音だけが空気を震わす。 昨日降った雨が作る水溜りを交わしながら歩く道は私達以外誰もいない。 舗装された道路を抜け、しばらく進むと開けた場所へ出る。 濡れたアスファルトの匂いが湿った土の匂いへ変わった。 朝晩の冷え込みもなくなり、足を傷つける霜も見当たらない。 道を挟んで

          霜止出苗

          葭始生

          右手に握りしめたエコバッグから飛び出たネギが手の甲を掠める。 学生時代、晩ご飯はなんだろうかと考えながら通ったこの道を、今度は自分が夕飯のメニューを考えながら歩くことになるとは… 夕暮れの土手には涼しい風が吹き、すれ違う野球少年たちは楽しそうに声を上げながら走り去っていく。 「おーかーあーさーん――――――!!!!」 遥か先を歩いていた息子の声が空に響く。 「はーい。」 「はーやーくー!」 逆光によりその顔は判別できないが、ぴょんぴょんと跳ねるシルエットが細く伸び

          葭始生

          虹始見

          「あ、クリア…」 画面に流れる華々しいエンドムービーを眺めながら数時間ぶりにコントローラーを手放す。 壁との隙間に挟んでいたビーズクッションを引き抜き、今度はそれを抱きかかえるようにして横たわれば、ギシっ、とベッドが軋んだ。 遮光カーテンと床の隙間から差し込む光。 夜通しゲームをし続けた目にはいささか眩しすぎるそれから逃げるように目を伏せる。 テーマソングが流れ続けるTV、時折コポコポと音を立てる加湿器、外から微かに聞こえる子供たちのはしゃぐ声。 昨夜からしきりに窓を

          虹始見

          鴻雁北

          ふらつく足元を何とか踏ん張り、階段を降りる。 年々酒に弱くなっているのか、二日酔いになる機会が増えたように感じる。 若い頃のような無茶な飲み方をしているわけではないのに… そのまま廊下を直進し、居間に入る手前を左に曲がり台所へと立ち寄る。 水切り途中の食器を横目に冷蔵庫の中からミネラルウォーターを手に取り、肩で軽く扉を押し戻す。 パキっという小気味い音を立てて緩むキャップを手中に収め、ぐっと喉に流し込むとその通り道がはっきりとわかるほどの冷気が体内を滑り落ちていくのを感じ

          鴻雁北

          玄鳥至

          「あーーー、腰が…」 去っていくバスの駆動音を聞きながらキャリーケースから手を離し、ぐっと両手を空に向かって伸ばす。 鈍い音が節々でなっているのを無視して脱力すれば、先ほどよりかは幾分軽くなった体。 首を回すついでに辺りを窺うが、時が止まっているのではないかと思う程に記憶の中の風景と相違ない。 錆ついた看板の精米機、色あせたポスターの張られた美容室、崩れないのが不思議なほど朽ちている野菜の無人販売所。 砂利道にキャリーの足をとられながら何とか歩き続けていると、ようやく実

          玄鳥至

          雷乃発声

          「わ、どうしたの?」 「急に降ってきたんだよ…もうびっちゃびちゃ。」 玄関先に佇むその姿を確認し、脱衣所へと向かう。 棚から畳みたてのバスタオルを手に取り再び玄関まで戻ると、少しでも水気を切ろうと服の裾を絞っている最中だった。 「はい。とりあえずタオル。」 「ありがと。志穂は?降られなかった?」 「今日はちょっと早く帰れたから…」 「そっか。そりゃよかった。」 頭をやや乱暴に拭いている真也の腕から、ずぶ濡れの上着を受け取り洗濯機へと放り込む。 張り付いてなかなか

          雷乃発声

          桜始開

          ピ――――――ピ――――…ガチャン… ワンルームの狭い城に洗濯を終えたことを告げる音が鳴り響く。 本棚を組み立てていた手を止め、小さなネジがなくならないようドライバーと一緒に元々入っていた袋に放り込んでから洗面台へ向かう。 内側にへばりついているタオルや洋服をほぐしながらかごに移し替え、年季が入りつつあるハンガー類を載せて部屋を横切る。 ゆらゆらと揺れるレースをくぐってこじんまりとしたベランダへと出ようとしたところで、けたたましい振動音。 かごを小脇に抱え、空いた右手で卓

          雀始巣

          「うっ…」 「大丈夫?ちょっと休む?」 「ううん、平気。」 苦笑しながら大きなお腹に手を添えている姿はまだ見慣れない。 手にしていた衣装ケースを玄関先に下ろし、急いで姉のもとに戻りその腕に抱えられている段ボールを受け取る。 「わ、ありがとう。」 「いいよ。ていうか、姉ちゃんは動かなくていいから。」 「でもちょっとは運動しなさいってお医者さんにも言われてるしさ…」 「だとしても、重いもの持つのはやめなよ。見てるこっちがひやひやする。」 「えー?」 不満気な姉を