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あのネクタイでの移籍会見からずっと”応燕”してるから

 推しが生まれるきっかけなんて、些細なもんだ。

 ヤクルトスワローズには、太田 賢吾選手という内野手がいる。少し前のことになるが、2018年シーズン終了後の12月11日、秋吉 亮投手・谷内 亮太選手との2対2の交換トレードで、高梨 裕稔投手と共に日ハムファイターズから移籍してきた。

 推し球団に降ってわいたトレード報道に直面したときの心持ちはまあマイナス方向に振れるんじゃないかと思う。私はヤクルトスワローズのファンだが当時このトレードはショックでしかなかった。

 秋吉投手はわりと近くの都立高校出身で親近感もあり肩入れしていた。谷内選手は当時スワローズの中でもとびきりの推し選手だった(好守備内野手大好物)。だから彼らが推し球団の選手でなくなる寂しさと困惑、複雑な感情が入り乱れとにかく凹んだのだ。

 トレード相手2人のうち高梨投手は2016年新人王タイトルホルダーで認知度は高かった。けどもう1人の太田選手のこと、それまでファイターズの試合をほぼ見ることが無かった私は、顔も名前も経歴もプレースタイルも全く知らなかった。え、太田??大田 泰示じゃなくて??誰?とか思ってたごめんなさい。

 もちろんスワローズにきてくれるからには応燕おうえんする。ただ太田選手の経歴を見るに、埼玉の県立川越工業高校からドラフト8位指名ってことはおそらく全国的にはまるっきり無名の選手、そしてまだ若い(移籍当時21歳)。一軍戦力になるのはもうすこし先なのだろうと思った。

 かたやヤクルトのスーパースター山田選手と大の仲良し、チームの次期ショートストップはこの選手!と推してた谷内選手のそのトレード相手として……どう?なんて、なんだかモヤモヤしなかったといえば嘘になる。

 でも、そんな心の靄は太田選手の入団会見記事の写真を見た瞬間、あっという間に晴れてしまったのだ。

 入団会見にのぞむ選手が会場で球団旗を背にし、その際、新しく所属する球団のカラーやモチーフにちなんだネクタイを締めている姿はよく目にする。広島カープに移籍した時の元ジャイアンツ長野選手の真っ赤なネクタイ、逆にジャイアンツに移籍してきた時の炭谷選手のジャイアンツカラーの鮮やかなオレンジネクタイ……など。

 移籍の経緯はどうあれ、新しい球団に一刻も早く馴染み活躍してやろうという意気込みやサービス精神みたいなのも垣間みえて、そういう前向きな選手はやはり応援したくなる。

球団リリースの入団会見写真より。若い!若いぞ!

 その日、太田選手のネクタイは赤・紺・白のチェック柄のデザインだった。21歳という若さに似合ってるし大きな柄も186cmの高身長だからかとても映えていたと思う。なにより配色とチェック柄で浮かぶ斜めのラインが、背後に掲げられていたスワローズの球団旗デザインと見事にマッチしていて、私は写真を見た瞬間「センス良いなあ!」と唸ってしまったのだ。

 ネクタイがこの日のために新調したものであれば、その心意気とセンスに脱帽だ。手持ちからなんとなく雰囲気にあわせて選んだのでも、勘の良さに期待が持ててしまう。いやいや、ただお気に入りを無心でチョイスしただけかも?ならば、むしろそれこそスワローズという球団との相性の良さを如実に物語っているのではあるまいか!(個人の感想です)

 いちファンはたった1枚の小さな会見写真から、こじつけじみた妄想をむくむくと膨らませた。挙げ句、当時中学生の息子に同じブランドのものと思われるチェック柄があしらわれたTシャツを購入(8,000円くらいした!)するほど、あさっての方向に盛り上がる。要はこの未知なるプレイヤーにすっかり興味をかき立てられてしまった。

 ともあれ、その日から太田選手は推し球団の中の推し選手の一人に急浮上する。きっかけというのはいつだって些細なものなんだ。

 一軍戦力になるのはまだ先だろうという予想に反し、移籍初年度2019年シーズンの太田選手は期待以上の活躍を見せる。

 前年度からリードオフマンとして活躍していた坂口選手の死球禍離脱により巡ってきた一軍昇格後すぐ、移籍初打席でタイムリー。翌日も途中代打で登場し、結果三振はしたが1塁側内野スタンド奥上段に特大ファールをぶちこんだのでこの日神宮球場にいた私は度肝を抜かれた。

 2019年の5月からは令和元年、その初日、5月1日のデーゲームで「プロ野球令和初安打」を記録した打者は何を隠そう太田選手だ。これぞ”持ってる男”というのではあるまいか。(個人の感想です)

 サードを中心に3・4・5・6ぐーるぐると内野全守備位置につき、様々な場面でチームの穴を埋める役割を果たしたと思う。怪我離脱などもありつつ最終的にこの年90試合に出場、主に一番打者として337打席で打率.251、ホームラン3本とという成績を残した。これは太田選手のキャリアハイ。

 ホームラン3本のうち2本が中日ドラゴンズ戦で(柳投手とR.マルティネス投手から!)中日投手と相性が良い印象がある。勝利につながる活躍も何度かありそのたびに「ケリー(太田選手の日ハム時代からの愛称だそう)をヒーローインタビューに呼んで!」と思っていた。巷にもその声は多かったと思う。

 2019年最終戦は9月28日のジャイアンツ戦。太田選手は、延長10回に見事サヨナラタイムリーを放つ。私は神宮球場で観戦していたからついに目の前でお立ち台か!と思いきや、最終戦セレモニーのせいでヒーローインタビューは幻となった。これもある意味”持ってる男”というのか、どうなんだ。(個人の意見です)

 けれどこの年、リーグ最下位に終わったどん底スワローズの中で太田選手が最終戦で残した爪あとに次年度以降のさらなる飛躍を期待したのは私だけじゃないはずなのだ。

 その後、2021年には二軍首位打者、一軍でも節目節目で印象的な活躍はあるものの、2023年の現在に至るまで残念ながらまだ「潜伏期間」となってしまっていると思う。内野手登録だが出場機会を拡大するため、外野を守ることも増えている。

 2022年4月12日広島カープ戦、勝ち越しの押し出し四球を選び移籍4年目、満を持してスワローズでは初となるヒーローインタビューに登場した。(ライトでスタメン、2安打1打点、ナイス!)

 慣れないセンターでの超絶ファインプレーや、わちゃわちゃノールックスクイズ。

 超ローボールすくい上げ変態HR。

 この数年の成績を見ればわかる通り、二軍ではまるで打ち出の小槌のようにヒットを量産している。けれど一軍の試合ではなかなか思うような結果を出すことができていない。本当にもどかしい。

 私はいつもフィールドの太田選手を生でみると、とにかく大きいなあという印象を受けていた。体だけでなく声も動きも。外国人選手と村上選手を除けば比較的小柄なヤクルトの野手の中でその長い手足とにぎやかでダイナミックな動作は目につく、そして愉快だ。飽くことがない。

 今年のスワローズは、勝てそうで勝ちきれない、かといって負けそうで負けきらない。2年連続リーグ優勝の後なのだから決して弱いはずはないのに、強いのか弱いのかさっぱりわからないモヤモヤした試合を続けているようにみえる。まあ急に強くなったり弱くなったりするのがスワローズではあるのだけれど。

 ただ、こんなときこそ太田選手の出番なのではないかと思うのだがどうだろう。こんなかんじに煮えきらない試合のなかでも、ときに颯爽と、ときにドタバタと、ときに意外さのあまり度肝抜かれ笑い呆れツッコミしてしまいたくなるような太田選手がグラウンドを縦横無尽に走り回ってくれたら。私は、少しは、いや、だいぶ楽しくなると思うのだ。
 
 あのネクタイでの会見から、ずっと応燕し続けているから。

 太田選手を”隠し玉”としてスカウトした、日ハムの故今成泰章スカウトの秘話は面白い。

 ある年、埼玉大会の第1試合に有力校の試合があり、他球団のスカウトが視察に訪れた。だが、今成さんの目当ては第2試合に出場する無名選手だった。このままでは、1年時からこっそり温めていた隠し玉が他球団のスカウトに見つかってしまう。危機感を覚えた今成さんは、第1試合の途中で「他の球場でもやってるから、移動しようぜ」と他球団のスカウトを強引に連れ出した。そうして苦労して指名にこぎつけた太田賢吾は、現在ヤクルトで一軍定着を目指して奮闘中だ。

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《追悼》“12球団初の新卒スカウト”が「マムシの今成」と呼ばれるまで…明かしていた“無名の有望選手を他球団から隠した”話





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