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#読書感想文〜「リリアン」

「リリアン」岸政彦・著(新潮社・2021)
著者の岸政彦氏は、社会学者で、大学の先生。
市井の人々の生活を、聞き取り調査する研究をしています。

小説はこれが3作目。
これまでの作品は、いくつかの賞の候補になっていて、アマゾンのおすすめで、よく上がってきました。
読んでみたら、非常に好みだったので、今回も、多分好きだろうなと思いながら、手に取りました。

ちなみに、この作品で、第38回織田作之助賞を受賞されました。

前作同様、文体が気持ち良く、するすると進んでしまうのですが、あまり速く進んでしまうと、もったいないので、たびたび、スピードを緩めて、気を落ち着け、味わいながら読みました。

物語は、全体的にゆれています。

海のシーンから始まって、楽器を演奏する描写も、部屋の中でも、全体を通して、通奏低音のように、ずっと揺れるイメージが流れています。

これは、もう感情が揺れるのが嫌になった女と、ゆらゆらと揺れ続けている男の話。

女の方は過去に一度、大きく揺れて、もうこの先は、できるだけ揺れないようにと、気を使いながら、生活している。

良い方にも、悪い方にも、傾きすぎないように、定点でじっとこらえているように見えます。

そして、それを、気遣う男も、優しくて、優しくて、ゆらゆらしていて、どこまでも切ないような、大人の小説です。

といっても、会話が多く、大阪弁で、表面上は明るい調子で、テンポ良く、軽快に進みます。

そういえば、大阪弁を使う作家って、気になります。

町田康、川上未映子、西加奈子、など。
あとは、宮本輝とか。

大阪弁を使いこなせる、つまり、文学に昇華させられるって、いいなあ。

大阪弁は、お笑い芸人さんのイメージが強いですが、文学作品の中の大阪弁は、ちょっと切なくて、優しくて、複雑なキャラクターが話していることが多いな。

谷崎の「細雪」は関西弁だったけど、あれも好きな作品です。

関西弁は、自分では、決して、書けない文体なので、憧れます。

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