noteマガジンカバー_三題噺_

(三題噺)不思議な目

 目が焼けるように熱い。また何かに呼ばれている気がする。布団を頭からかぶってうずくまる。半年前から夜中に目が熱を帯びるようになった。一定の周期で起こり、一体何に反応しているのか、まるきりわからない。
 ダウジングを使って埋蔵物を探すように、物や現象に反応して熱を帯びながら目の色が変わることがある。この特性が表れる人間はごく少数であり、医療機関にかかってもせいぜいクールダウンと痛み止めを兼ねた目薬を処方される程度でなくなることはない。
 私の場合、最近は目薬も効かなくなってしまった。こうして耐えるしかないのだ。無意識的に目頭あたりに力が入る。
「一体どうしろっていうんだよ……!」

 しばらくして少し痛みが引いてきたころ、私は汗でぐっしょりになっていた。いつもより熱っぽい。時刻は午前二時半。水を飲みに行こうとキッチンへと向かう。木造二階建て、寝室が二階でキッチンは階下の一番端っこ。階段と廊下の電気をつけて明るくなった道筋をたどる。
 途中玄関の前を通り過ぎようとすると、また目が熱を帯び始める。驚いてとっさに目を覆い隠す。これまで続けて起こることはなかったのになぜ? とりあえず、水を飲んで落ち着こう。
 キッチンに着くころには収まり、落ち着いて水分補給ができた。この特異体質でなにかをなした話は確かにある。詳しくは忘れてしまったが、実例が少なすぎて大半は自分のようなにデメリットしかない。目の色が変わるからって気味悪がられるだけだ。熱を帯びてもしんどいだけだ。自分に異例中の異例なことなんて、《《ない》》。
 ただ玄関付近で何かあるのでは?という疑問が浮かんだ。

 一度タオルで汗を拭いてから、私は玄関ドアから外へ出た。綺麗な満月が空に浮かんでいた。湖畔のほとり、さえぎるビルなどはない。今度も目は少し熱を帯びた。けれど外気は肌寒くて、目の状態はひどくならなかった。むしろなにか人影がこまねいているのが見える。彼を道しるべにサンダルで駆けた。何も考えず、ただがむしゃらに走った。そして気が付くと人影は消え、私は家の裏にあるお地蔵様の前にいた。小さい頃両親がいなくなってから祖父母が置いたものらしい。物心ついたときから両親はいないしこの地蔵が置かれていた。両親も私と同じような目を持っていたとおじいちゃんはいってたっけ。
 私はぼんやりとした思考からハッと気が付いて、もう家に入って寝てしまおうと一歩を踏み出す。

 踏み出せなかった。私の身体はいつの間にかお地蔵様になっていた。地蔵となった両親と向い合せに私は地蔵になってしまったのだ。動けない。そういえば目の力によって何かを捻じ曲げて概念や形を変えてしまうケースがあると話していたのを思い出した。私の場合は「自分を地蔵に変える」? なにそれ、意味が分からない。目の力は何を引き金に効力を発揮するかわからない上に、私はこのままずっとお地蔵様として生きていくのか? 読みたい本も見たい番組もすべてできないではないか。

一ヶ月がたったころ、湖畔のほとりにあるコテージに謎の地蔵が増えているニュースが地元で流れた。普段、人が住んでいるかもわからない建物だったために近寄る人も多くなかったから発見が遅れたらしい。ニュースでは不法投棄だろうといっていたが、建物の所有者である神田達也が行方不明であることも伝えられていた。

 建物はやがて朽ち、幽霊が出るとうわさの廃墟となった。


お題:引き金/目の色/道しるべ

よろしければ、サポートをお願いします。またSNSでの共有をしてくださると、喜びます。頂いたサポートは同人誌発行代に充てます。