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レッジョエミリア幼児教育と社会構成主義をなぜテーマに選ぶか

新潟市のひと箱図書館「ひとハコBase」に出展しました

戦後にイタリアで始まった教育実践

 レッジョエミリア幼児教育は、戦後の北イタリアで始まった自主運営の学校から始まっています。戦後の高度経済成長期に工場労働者の子どもたちを預かり、変化の激しい教育ニーズに応えるべく、同時代の教育学・心理学者であるブルーナーやフレイレ、ピアジェの知見を取り入れた教育実践を行い、60年代には公立幼児学校の地位を確立しました。

「アクティブラーニング」の起源?教育界隈での話題ぶり

 レッジョ市の公立幼児学校で行われている教育実践(レッジョ・アプローチ)が凄い、と評判が立ったのが80年代末の事で、佐藤学氏(現、東京大学名誉教授)がアメリカに研修に行った時には既に教育学者の間では話題の的だったそうです。
 ほどなく1991年2月2日号U.S.版ニューズウィーク誌に「世界で最も前衛的な教育実践」として取り上げられた事で世界的に知られることになり、教育学や発達心理学、脳科学者が注目、以後レッジョ・スクールを研究対象とした論文も多く執筆されているそうです。同時期に、レッジョ・スクールの子どもたちの作品を紹介した展覧会が世界各地の美術館を巡回しました。日本でも2001年に渋谷ワタリウム美術館にて開催されました。
 2010年代には東京都内にいくつかレッジョ教育の幼稚園が開校しています。またそれらの運営会社である「まちの研究所株式会社」により、2020年に国内向けの協会JIREA(Japan Institute for Reggio Emillia Alliance)が設立されています。いままさに夜明けという印象です。2010年代以降の国内の活況は、おそらく文科省の学習指導要領に「アクティブラーニング」や「主体的対話的で深い学び」という言葉が載った事が契機となったのではないでしょうか。

きっかけは、大型子育て支援施設の壁新聞。

 私がレッジョエミリア幼児教育を最初に知ったきっかけは、新潟市いくとぴあ子ども創造館に貼りだされていた館長さんお手製の壁新聞です。いくとぴあ子ども創造館は、児童施設建築で知られる仙田満氏が設計に携わった、大型子育て支援施設です。その子ども創造館がレッジョ・アプローチの影響を受けている、と書いてありました。
 幸運にも館長にたまたまお会いでき、直接お話を聴かせて頂くことができました。建設計画当時、新潟市役所の子育て支援課の担当職員がレッジョエミリア幼児教育に大層入れ込んでいたそうです。やはり子ども好きな人には響くものがあるのでしょうね。

根底にあるのは社会構成主義の哲学

 「レッジョ・アプローチ」の序章に、レッジョ・エミリア幼児教育は「社会構成主義者」と呼ばれる人たちが作り上げている実践である、と書かれています。詳しいことはそれ以上述べられていないのですが、対話と関係性、関わる全ての人の居心地の良さを非常に重視する点などがまさにその表れであると言えそうです。

 社会構成主義は一言でいうと「宗教や道徳が越えられない壁を、超えうる哲学」です。
 例えばゲイの結婚は、宗教的道徳からみると否定されてしまいます。しかし当事者の苦悩や人権の観点を思うと否定できません。パレスチナ問題では宗教観の違いが激しい対立を招き、終わらない紛争が多くの難民を生んでいます。
 日本だと、女性や子どもの権利はしばしば既存の道徳観・家族観に阻まれて損なわれやすい現状があります。2023年3月にもムチ打ち体罰を推奨していた新興宗教が問題になりました。暴力が彼らの宗教的道徳に根差しているのです。道徳が人の権利を損なったり、暴力を正当化しうるのかもしれません。
 2020年代の日本は今なお、家庭における女性の無償労働搾取や、学校や職場における同調圧力の課題を、認識しながらもなかなか克服できずにいます。教育現場で起こる虐待や指導死の事件も繰り返されています。子ども主体、子どもの人権という言葉は上滑りしているような、歯がゆい思いがします。
 その一方で自殺者の割合は圧倒的に男性のほうが多い。男女合わせた日本の年間自殺者数は2万人。トルコ地震や東日本大震災と同規模の死者数が毎年、毎年。それが子どもたちの巣立つ先なのだと考えると、信じがたい思いがします。
 この現代日本の生きづらさにも、社会構成主義は処方箋になりうると私は感じています。どうにかして子ども達が”生きていてもいい”と思える世の中にしたいものです。

参考文献:
「レッジョ・アプローチ 世界で最も注目される幼児教育」
アレッサンドラ・ミラーニ/2017/文藝春秋
「子どもたちの100の言葉 : レッジョ・エミリアの幼児教育」
佐藤学, 森眞理, 塚田美紀 訳/2001/世織書房
⭐︎あさひ幼稚園所蔵
あさひの初代園長がなんと2001年の展覧会に行っておられたようなのです。(現在100歳の名園長です。)こちらの本の内容も多く取り混ぜていますが入手困難の為、複写にて共有します。
「現実はいつも対話から生まれる 社会構成主義入門」
ケネス・J・ガーゲン/2018/ディスカヴァー・トゥエンティワン


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