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『A DAY IN THE AICHI 劇場版 さよならあいち』伏原健之さん(東海テレビ)×カンパニー松尾監督トークレポ

2020.02.15『A DAY IN THE AICHI 劇場版 さよならあいち』
伏原健之さん(東海テレビ)×カンパニー松尾監督トークショー@シネマスコーレ MC:坪井さん(シネマスコーレ)

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名古屋・シネマスコーレで公開中の『A DAY IN THE AICHI 劇場版 さよならあいち』
初日トークゲストは本作に出演されている、東海テレビドキュメンタリー『人生フルーツ』監督の伏原健之さん。
2年前の作品ながら未だ上映が続く『人生フルーツ』は、国内はもとより韓国などでも異例の大ヒット中とか。
東海テレビドキュメンタリー劇場版は、同局のある名古屋では、これまで名古屋シネマテークというミニシアターで上映されてきました。つまり伏原さんは、シネマスコーレには初登壇。
東海テレビドキュメンタリーファン、名古屋の映画ファンにとっても、なんだかレアで貴重な空間となりました。せっかくなんでトークの一部をお届けします!

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松尾:この『さよならあいち』は、全国公開中の『さよならテレビ』のつながりで見ていただいても面白いと思います。そちらにも伏原さんは全然違う立場で出演されてます。伏原さんは映画監督が本業というわけではなく、東海テレビの報道局にいる方です。

伏原:普段はテレビ局員です。『さよならテレビ』は、僕も映り込んでます。

松尾:『さよならあいち』は、もともと「あいちトリエンナーレ」で4回だけ上映された4時間の映画でした。せっかく作ったし、もう一度東京から始めようと3時間版に再編集しました。今回は名古屋の皆さんにすごく分かりやすい背景で見てもらえたと思いますが、東京や京都では全くゼロから見てもらうので「愛知あるある」だけで盛り上がるとダメかなと思って、それを外しました。

坪井:今回は映画っぽいですよね。

松尾:そうですか? 個人の話でワケわかんないですよね?

伏原:個人の話、人間の話がすごく良かったです。

坪井:伏原さんのインタビューシーンはどんな撮影だったんですか?

松尾:まだ人間関係が全然ないまま、その前に飲み屋で少しご一緒しただけで撮影しました。

伏原:圡方(宏史)監督のインタビューシーンの撮影後、僕が松尾さんに興味があったので宴席にお邪魔しました。そこで「じゃ撮ります」という話になり、春日井駅で待ち合わせして車に乗せていただきました。「こういうの見たことあるな~」と思いながら車に乗りました。

松尾:僕の本業のAVでは、女性に車の助手席に座ってもらってインタビューするんです。

伏原:「これか~」と、すごくドキドキしました(笑)。

坪井:カメラも同じ位置ですからね。

伏原:同業なので、距離の詰め方が「あ、来た!」と思いました。

松尾:「なんかあるのかな」みたいな(笑)。

伏原:服は脱ぎませんが、心を剥がされていくところがあって「どうしようかな、どこまで出しちゃおっかな…」みたいな感じはすごくありましたね。僕は人を撮る仕事をしていますが、あんまり自分自身を撮られることがないし、どう撮ってどんな話をしてもらおうかと普段は考えているので、撮影者の意図を分かったふりをしようかどうか葛藤しました。

松尾:僕も撮られるのは苦手です。探り探りで様子見のところはありますよね。

伏原:撮られる側はこんな気分なのかと思いました。テレビ屋なので「ちょっとおいしいところも設けなきゃいけないかな」「それっぽいことを言いすぎると使えないか」とか、いろんなことを考えていましたね。

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松尾:伏原さんは本来『さよならテレビ』で描かれるようなテレビ報道の厳しい環境でお仕事されているんですけど、作中では『人生フルーツ』の話をしてもらいました。非常に良かったなと思うのは、テレビマンの伏原さんがどういう気持ちで『人生フルーツ』を撮られたのかを、ちゃんと話してくださった。報道の中ではできないこととして「悪い部分ではなく良い部分だけを描いた」と。
それは作り手として僕も同じなんです。物事は捉え方によって違うんですよね。僕は伏原さんの姿勢が好き。見ている人に対して、何か希望を与える形のほうが、僕は好きですね。

坪井:男2人で遊具に座ってる、公園の画がいいですね。

松尾:あれはロケ場所を探してたんです(笑)。話を聞くなら公園だと思ったんですが、あの公園があまりにも寂しすぎた。誰もいなかった。

伏原:「どうしようかな、(パンダの遊具に)乗ろうかな」と考えましたが、僕は遊具を中途半端に揺らしてますね(笑)。

坪井:ああいうのはカンパニーさんのドキュメンタリーの切り取り方だなと思いました。今回、音楽、テレビ、映画など愛知の文化に深く入っていますね。ひとつの地域で、多方面の文化に入るドキュメンタリーは珍しい。映画のみ、音楽のみならありますが、こんなに多方面なのはないと思います。

松尾:音楽は、本当はもっと深いんですけどね。名古屋アンダーグラウンドのシーンは掘り切れないほどあって、今回、音楽関係は手を引っ込めてるんです。

坪井:映画に関しては、テークさんとスコーレに刈谷日劇さんが入ってくるのがカンパニーさんの色ですね。愛知は音楽だけでも深いし、人もいっぱいいるし、食もあるし、3時間でよく収まったなと思います。

松尾:いや、端っこをつかんでるだけ。東海テレビさんが一つの核にはなりました。

坪井:『さよならテレビ』は、東海テレビのスタッフがカメラを回しますが、今回カンパニーさんに撮影されて、感覚的には全然違いますか?

伏原:『さよならテレビ』は空気みたいな感じで毎日撮っていたので、撮られている感がなくそのままを切り取っています。「あの人はああいうキャラだよね」「この人、こういうこと言いそう」とかいうのが、実に見事に編集してありますね。カンパニーさんはそんなに長い時間を撮影されたわけじゃないんですが、すごい詰め方でギュッと来られました。
自分の中では、この中でも言っている東京コンプレックスが未だにあり、この映画にも「ああー」と思う部分がすごくあります。カンパニーさんはじめ、地元から出て活躍されている先輩たちへの憧れがすごくあります。その思いが、お会いして強くなりました。地元でやれることをやろうという感覚と、一方で近くて遠い東京の光をやっぱりすごく感じました。自分に跳ね返ってきた感じはあります。

松尾:そういう見方もしていただけたんですね。確かに僕自身、あいちが好きなんですが、やっぱり俺はあいちを出て、結果良かったなと。あいちを出たのは、今もそうですが、なんか実家にいると寝ちゃうんです。

伏原:ああー。

松尾:実家って、良すぎちゃう。戦うために出てきたんだなというのは、これを作って分かりました。映像専門学校に行きたかったのもありますが、総じて言うとそういうことだったんだなーと。中学や高校の時、周りに面白い奴がいて、でもそいつらは消防士になったんです。「俺より面白いのに!」と思った。別に消防士が悪いわけじゃないですよ。うまく説明できないけど。そういう忘れてたことを改めて思い出しましたね。
最初に頭の中で考えてた『A DAY』の構成には、あまり自分のことは入れてなかったけど、人と会って喋ってるうちに、自分のことも出てきたというか。

坪井:『人生フルーツ』は、あいちから出てきたものを全国版にした代表格ですよね。僕らにとっては希望でした。

松尾:東海テレビドキュメンタリーの流れでは『人生フルーツ』だけ違う気がします。

伏原:その通りです。僕はそもそもあんまりドキュメンタリーが好きじゃなかったんです。そこから作っているので、ドキュメンタリー好きに好かれないものを作ろうと思っている。圡方監督も多分それに近いんじゃないかと思います。

坪井:圡方さんも異物的なところがありますね。

伏原:僕の分析ですが、圡方監督と僕も違うんです。
道路に犬のウンコが落ちてたら、ウンコに気づくところは多分一緒。圡方はそれを棒に突き刺して「ヤーイヤーイ」と楽しむタイプ。僕は臭いのがイヤだから「あそこは花が咲いてたんじゃないかな?」と妄想をふくらます感じ。圡方作品を見ていると「よくそんなところを開けるね!」と思うし、ヤクザの事務所なんて行きたくないですからね。
実は『人生フルーツ』と『ヤクザと憲法』は対で、彼はヤクザの日常を描く。僕はヤクザを主題にしたくない。『人生フルーツ』は美味しい食べ物ばかり出てくるんですよ。ロケに行くのが楽しい。『ヤクザと憲法』は刺激的なシーンも出てきますよね。『人生フルーツ』をやりながら「ロケは美味しいけど、何にも物語が起きないなあ。うちもドンパチ起きないかな」と思ってました。でも何も起きない。圡方監督に「お前のはいいなあ」と言ったら、彼も「いや、ヤクザの事務所はめちゃめちゃ地味ですよ」と言う。だから手法は一緒で、ヤクザだけど淡々とヤクザの事務所を追いかけるだけ。僕はおじいさんとおばあさん。そして、ほぼ両極端なものをプロデュースする阿武野さんは、やっぱり変わってるなと思いますね。

坪井:普通はどちらかに行っちゃうか、真ん中をとっちゃいますよね。

松尾:阿武野さんはすごくチーム愛が強いんです。だからテーマを凝り固まって攻めるのではなく「お前がやりたいならやれ」と自分のチームを信じるところから始まってる人。だから、テーマや撮り方は監督によっていろいろ。

伏原:そうですね。『人生フルーツ』は、もちろん「これは面白くなる」と思って始めたんですが、企画書にすると「90歳と87歳の老夫婦が高蔵寺ニュータウンで暮らしています」というだけの物語なんです。

松尾:2行で表すと企画内容としては弱い(笑)。

伏原:企画書上では、絶対通らない。周囲の人も「よくあんなのやるね」と思っていたらしい。阿武野プロデューサーも「大丈夫か?」と思ってたらしいですが、通してくれる。一方で『ヤクザと憲法』なんて、普通は「やめとけ」ですが、それをやる。

松尾:テレビという、数字やら何やらを気にしなきゃいけない仕事をする中で、ふつふつと湧き上がるスタッフの企画を、ちゃんと取り上げてる阿武野さんは面白いですね。

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坪井:では、最後に一言お願いします。

伏原:どうもありがとうございました。今日は見てよかったなとすごく思いました。時間も遅いし、長いし、どうしようかなと思ったんですが(笑)、すごく良かったです。「明日から何か変わらなきゃ」と思うことがありました。

松尾:あっ、そうですか。良かったです。そういうものを作りたいと思ってますんで、良かったです。ありがとうございました。
皆さんも、映画って見に来てもらわないとダメなものなんで、これからも映画をいっぱい見続けてください。

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『A DAY IN THE AICHI 劇場版さよならあいち』
監督:カンパニー松尾
出演:松本亀吉(会社員/ライター)、大橋裕之(漫画家)、早川瑞希(AV女優)ほか
2020年2/15(土)〜21(金) 名古屋シネマスコーレ
2/21(金)トークゲスト: 阿武野勝彦(東海テレビ)『人生フルーツ』、『さよならテレビ』プロデューサー、圡方宏史(東海テレビ)『さよならテレビ』監督

<今後の上映予定>
2/21(金)〜 京都みなみ会館
2/23(金)岡山ペパーランド 1日限定上映
2/29(土)刈谷日劇 1日限定上映

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©︎ company_matsuo


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