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あの旅の、始まりの場所へ

今日の記事の書き出しは、10年前の3月11日、羽田空港第3ターミナルと、3月12日、マレーシア・クアラルンプールの空港から中心街へ向かうバスの中で書いた文章から。10年前の冬、僕はバックパッカーとして東南アジアへ旅立った。

140311 19:35 羽田空港国際線ターミナル、アイスコーヒーを飲みながら

函館からのフライトはあっと言う間だった。いつも通りの1時間半のフライトだったけれど、考え事をして、少し寝て、『スプートニクの恋人』を読んでいたらすぐのことだった。

函館には、この旅のお金を貯めるために帰ってきたわけだけれど、やはり7ヶ月もいると思い出もたくさんあるわけで。久しく会えなくなる家族や友人の事を思って飛行機に乗り、その飛行機が動き出して搭乗口から離れて行く時、まるでいろんな感情と肉体が離されていくような感覚を覚えた。感じると思っていなかった悲しみや寂しさが、空港の建物と僕の肉体の間で糸を引くように伸ばされて、離れた。

不思議な感覚だったな、と思っていると飛行機は既に千葉の上空だった。時間は17時35分。函館でやっていたバイトに行く時の気持ちを思い出させるような空の明るさだった。そして、窓の下に広がる関東平野に敷き詰められた街の灯りが、どことなく僕を不安にさせた。何の関係もない光を、上空から見ているけれど、その光の一つ一つには、その場で営む人々の暮らしがある。

明日早朝、クアラルンプール上空から見下ろす景色は今日の関東平野と同じように小さく見える。しかし、明日から僕は、その知らない地上の「光」のもとで、人々と共に生活していくことになる。いきなり”リアル”が近付いてきた。

けれど、その光のなかでどこにでも僕は進んでいい。360度、進んで良い道なのだ。そう考えると少し気が楽になった。

第二ターミナルから国際線ターミナルへ移動し、一気に英語や韓国語が耳に入ってくる。気持ちが少しずつ、「海外モード」になる。どんどん集中力を上げていこう。明日、とりあえずKLの中心に着くまでは、気を緩めずに。特にマレーシアの空港までは気をつけよう。初めが肝心!

https://ameblo.jp/workshoptakeaki/entry-11794966052.html

140312 7:35
いよいよ始まった。KLCCでは飛行機から直接建物に入っていくようなゲートがなく、飛行機から直接地上に階段で降りていく。見渡すと、どの搭乗口もそのようで、他の空港から着いた飛行機からも乗客が階段で降りてくる。
飛行機から降りて深呼吸すると、東南アジア独特のモワッとした空気が僕の肺の中に入り込む。遂に来た。この時を待っていたのだ。
入国審査の時に、指紋を全員取りますのでご協力ください、と機内アナウンスがあったけれど、いざ入国審査してみて僕が指紋を認識するスキャナに指を乗せるといいよそれはやらなくて、といった感じ。税関も別に何も持っていなかったけど、スムーズだったし。これはなんなんでしょう、日本パスポートパワー?
6時15分に着陸したけど外は真っ暗。そして今7時40分。マレーシア初の朝日をバスの中で見ている。美しい朝。Salamat Pagi. いよいよ始まる、もう不安もなし!

https://ameblo.jp/workshoptakeaki/entry-11796304411.html

2014年の3月11日、僕は羽田空港第3ターミナルから約1年間のバックパッカーの旅へと出た。マレーシア、タイ、カンボジア、ベトナム、ラオス、オーストラリア、インド、ネパール、韓国、日本の旅。その全てが始まったのが、マレーシアのクアラルンプールからだった。

あの日から約10年の月日が経った。今週末、僕は10年ぶりにクアラルンプールへ向かう。

漠然とした不安と、湧き出るようなワクワクと、あの旅に出る直前の羽田空港第三ターミナルの興奮は今でも鮮明に思い出せる。これから知らない自分に出会うような、何もない場所から壮大なプロジェクトを開始するような、そんな感覚だった。

バックパッカーの旅は本当に色々なことがあった。ホーチミンでのボッタクリ事件、オーストラリアの地獄のズッキーニ摘みのワーホリ出稼ぎ期間、インド宝石詐欺師事件、リシケシュのヨガ修行、道頓堀での韓国人の友人との別れ。

10年前、旅が終わって函館の実家で猫を撫でながら芋焼酎のお湯割りを飲みながら「あの旅はなんだったんだろう」と漠然と考えていた。旅を終えた達成感と、思い出すだけで戻りたくなる旅が終わった寂しさと、危機感を感じずにも生きていける日本の違和感と、

そして将来「いつか海外に行く人の背中を押す仕事をしたい」と思っていたことと。

色々な出会いと出来事があって、今は海外に行く高校生を支える仕事をしている。「海外行きたい、英語話せるようになりたい、って思ってること自体が最高だよ!!!」と言いながら。

そんな生徒が今週末、マレーシアの語学学校へ留学することになり、引率することになった。それが今回のクアラルンプール出張。旅の始まりの場所へ、漠然とした不安と、湧き出るようなワクワクを抱えている(であろう)生徒の留学をスタートさせる仕事で向かう。

もちろん仕事だから落ち着いて、あたかも「慣れているよ」みたいな素振りをしなければならないかもしれないけれど。それでもクアラルンプール国際空港から出た瞬間だけ、その瞬間だけは。目を閉じて10年ぶりにあの街に到着したときの空気を思いっきり吸い込んでみようと思う。

あの空港とあの街は、10年経ってどう変わっただろうか。
そしてあの空気は、10年経って僕にとってどう変わっただろうか。

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