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ひなげしがあるかぎり、生きなければならない

「優しさがある、林檎がある、信じる心がある
そう
ひなげしがあるかぎり、生きなければならない。」

というのは、イランの現代詩人ソフラーブ・セペフリー(1928~80年)の作品「ゴレスターネ村で」にある一節だ。セペフリーは、イラン中部のカーシャーンに生まれた。カーシャーンはバラの産地として名高い。花を摘み取り、バラ水と呼ばれる調味香料や香水を産出するところで、収穫期になると、花を摘んで加工を行う早朝には、カーシャーンの街はバラの香りでいっぱいとなる。

 有名なイラン映画にアッバース・キアロスタミ監督の『友だちのうちはどこ?』(1987年制作)がある。友達の宿題ノートを間違えて持ち帰った少年アフマドが、ノートを届けるために、山間の村の中でその友達の家を探すというストーリーで、最後のセリフが「友だちのうちはどこ?」だった。


 この映画の題材となったのは、セペフリーの詩「住所」であった。

「あの木の手前
神の眠りよりも翠色をした小路がある
そこでは 愛が誠実の羽くらい蒼い
成熟の向こうから現れたその小路の終わりまで行き
そして孤独の花の方を向いて
花のところまで二歩のところ
地上の神話が永久に噴き出ているところに居てごらん
すると透明な畏れがお前を取り囲み
誠実に流れる空間の中で さらさらという音が聞こえるだろう
高い松の木にのぼって光の巣から
ひな鳥を捕まえている子供が居るから
その子に尋ねてごらん
友だちのうちはどこ、と」
鈴木珠里(訳)「住所」*
前田君江さんのブログより

 セペフリーは、「東洋思想は己と世界の『調和』と『一体性』とを志向する」という認識をもっていたが、カーシャーンのバラの美しさやその香しさは、セペフリーの「優しさ」の情感を生み出したに違いない。

アイキャッチ画像はひなげし


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