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大谷翔平選手に贈るソグド人の故事

 MLBで大活躍してきた大谷翔平選手に降ってわいた元通訳のスキャンダルに接して「人間万事塞翁が馬 (にんげん ばんじ さいおうがうま)」という故事を思い出した。これは、中国の故事だが、イランなど西域に関連するものだ。

「むかしむかし、中国の北辺の塞(とりで)のそばに住んでいた老人の馬が、 胡(こ:イラン系民族のソグド人と思われる)の地に逃げた。
数か月後、その馬が胡の駿馬を連れて帰ってきた。
老人の子が、その馬に乗り落馬して足を折った。しかし、そのおかげで兵役を免れて命が助かったという。 」

つまり、人生はよいことも悪いこともあり、人生に起こったことに一喜一憂していてはならないことを言っていると思う。ソグド人たちは現在の日本人にも人生の教訓を遺している。

駱駝舞楽胡人俑。ラクダに乗って演奏する胡人の像。俑は副葬用の人形のことで、俑の胡人はソグド人を表す。唐代、陶磁器製 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%82%B0%E3%83%89%E4%BA%BA


 中央アジアでは「胡人」と呼ばれるソグド人がイスラム化以前まで活発に交易を行っていた。「胡」というのは、中国人が秦・漢時代は北方の匈奴を、後にシルクロードの交易が盛んになると、西方の異民族の呼称として用いた。唐代では西トルキスタンのイラン系民族であるソグド人を意味するようになった。ソグド人の宗教はゾロアスター教で、突厥などトルコ系遊牧国家や中国の領内で通商活動を活発に行った。

 「深目高鼻(しんもくこうび:窪んだ目と高い鼻を持つ彫りの深い顔つき)・青眼多鬚(たしゆ:ヒゲを生やした)の「胡賈(こか)・胡商〔ともにソグド人商人〕」は西方の文物や慣習を中国にもたらし、その世界文化への発展に貢献し、唐の都である長安には多くのソグド商人が住んでいた。胡瓜(キュウリ)、胡桃(クルミ)、胡麻(ゴマ)、胡蒜(ニンニク)など「胡」がつく食品は中国の西方から胡人(ソグド人)がもたらしたとされる。

 「胡人」は日本にも影響を与えた。ソグド人の特徴である「深目高鼻」のお面は奈良の正倉院にあり、中国から日本に渡来した鑑真の一行にもソグド人がいたことが判明している。遣唐使がもち帰ったいわゆる「唐物」の中には、香料や染料、薬品にもソグド人が中国にもたらしたものもあった。

イラン人女優 ナーザニーン・ボンヤーディ https://openart.ai/community/q16ZwIMybWXdWdNskFN6


明日のことは誰にもわからぬ、
明日のことを思うは無益なこと。
心が覚めているのなら、この一瞬を無駄にするな、
命の残りは限りあるものなのだから。
オマル・ハイヤーム/岡田恵美子訳『ルバイヤート』

 作家の瀬戸内寂聴さんも東北被災地における説法の中で「無常」を説き、被災者たちに「物事は流れていきます。いまがどん底と考えればこの状態も常ではなく、そこに希望が見出せます」と語っていた。古今東西の無常観に関わることわざや詩、説話は、人生にはよいことも悪いこともあり、人生に起こったことに一喜一憂していてはならない、天変地異が起きても心の平安を保ちなさいと教えているように思う。瀬戸内寂聴さんの言葉にあるように、不幸なことが起きても、今が底だと思い、好転する時期が必ずやって来ると思えば、今ある心の重圧も軽減されることは言うまでもない。と言っても、大谷選手が底を迎えたわけではまったくない。

笑顔が素敵な女性だと思います。お金の管理は夫人を通じてしっかりした会計事務所に任せるのが良いと思います。 試合後、記念撮影する選手の家族ら。後列中央はドジャース・大谷の妻真美子さん。MLB韓国開幕vsパドレス第2戦 https://www.chunichi.co.jp/article/872219


 それにしてもスキャンダル発覚後、大谷選手の出場停止、さらには永久追放にまで触れる無責任な報道は不快に思わざるを得なかった。元通訳は大谷選手の銀行口座の開設に関わるなど口座に関する情報をもち、また小出しに送金したのは大谷選手に気づかれないようにという意図からのような気がする。大谷選手は周囲の雑音に惑わされることなく、ホームランキング、3度目MVPの獲得、ワールドチャンピオンなどの目的にまい進して、日本だけでなく、世界の多くの人の期待に応えてほしいものだ。

「困難な仕事を心配し、心を砕く事なかれ
命の泉の水は暗闇の中にあるもの故に
厄災に捕らわれ、泣き叫ぶことのないように
神はその親切を隠している故に
日々の巡りに顔を顰めるな
忍耐は苦きものであるが、甘美なる実りを持っている」 
-サーディー『ゴレスターン(薔薇園)』


大谷選手は日本人だけでなく、多くの人々に夢を与えていると思う https://www.japan-baseball.jp/jp/news/press/20230322_1.html

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