台湾大地震と相互扶助は人類共通の文化遺産
台湾東部の沖合いを震源地とする大地震が発生した。
「情けは人のためならず」とは、「人に情けをかけるのは、その人のためになるばかりでなく、やがてはめぐりめぐって自分に返ってくる。人には親切にせよという教え。」という意味である。(「故事ことわざ辞典」)台湾は東日本大震災の時に、日本に200億円の義援金を寄付してくれ、救助隊を日本に派遣し、さらに数え切れないほどの品目の多くの支援物資を届けてくれた。
東日本大震災から10年経っても蔡英文総統はツイッターに日本語で「我々は世界に向けて、台湾と日本はいつまでも、固く結ばれている隣人だと伝えたい。台湾人と日本人は、心と心で深いつながりを築いています。その絆こそ、台日関係の最大の原動力であります。いつまでも日本を応援しています!」と投稿した日本も1999年9月の台湾中部大地震や2009年8月の南部台風災害などで台湾を支援してきたが、今度は日本の番だ。
アフガニスタンで支援活動を行った中村哲医師は平和・相互扶助が「人類共通の文化遺産」と形容した。2001年3月にアフガニスタンのタリバンがバーミヤンの大仏を破壊すると、中村哲医師が代表を務めるPMS(ペシャワール会医療サービス)のアフガン人職員が「(破壊は)遺憾で、日本がアフガン人を誤解しないように望みます」という手紙を中村医師に書くと、これに応えて中村医師は、職員との朝礼の中で次のように述べた。
「われわれは諸君を見捨てない。人類の文化とは何か。人類の文明とは何か。考える機会を与えてくれた神に感謝する。真の『人類共通の文化遺産』とは、平和・相互扶助の精神でなくて何であろう。それは我々の心の中に築かれ、子々孫々伝えられるべきものである」(「学士会会報」832号〔2001年〕)
中村哲医師が言う通り、平和・相互扶助は、イスラムでも宗教の根幹を成す概念である。イスラム世界の挨拶は簡略には「サラーム(平和)」であり、より長く表現すれば「アッ=サラーム・アライクム(あなたがたの上に平安がありますように)」といい、平和は常に信徒たちが意識する信条である。相互扶助は、イスラムでは貧者や未亡人、旅人を保護するために必要な宗教税を「喜捨(ザカート)」として宗教上の義務行為として定めている。
同様に、ユダヤ教でもヘブライ語聖書(旧約聖書)にはシャローム(平和)という言葉が200回余り登場し、「貧しい者に手を差しのべよ」と教えられ、ユダヤ教では「ツェダカ」の義務があり、金持ちでも貧しくても、収入の10分の1を寄付することになっている。そこには、お世話になった人への恩返し、社会還元の意味もある。さらに平和について言えば、旧約聖書の「詩篇」には「平和を尋ね求め、追い求めよ」(詩編34:15)とある。これは自分自身の平和を実現できる者はどこに行っても平和を創り出す資格があるという意味だ。
イスラエルの人々もユダヤ教の平和や相互扶助の精神に立って、ガザ攻撃を停止し、ガザ社会の復興に力を尽くしてほしいものだ。
歴史的には日本は台湾を植民地支配した。石橋湛山(1884年~1973年)元首相は「朝鮮・台湾・樺太・満州という如き、わずかばかりの土地を棄つるこにより、広大な支那の全土を我が友とし、進んで東洋全体、否、世界の弱小国全体を、我が道徳的支持者とすることは、いかばかりの利益であるか測りしれない。(「大日本主義の幻想〈1921年〉」と述べた。石橋が「弱小国」として意識した国の中には当時は日本とは接触が稀なイスラム諸国も入っていたと思う。第二次世界大戦後、イスラムの人々は日本に対する「道徳的支持者」であり続け、それが日本の有形、無形の財産になってきた。
日本は台湾に平和的関与を継続すべきであり、アメリカの発想に踊らされて、中国との軍事的対立の発想で台湾との交流を考えるべきでないと思う。
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