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パレスチナの国連加盟に拒否権を行使した米国と、イスラエルの人権侵害を非難してきた世界の作家たち

 18日、国連安保理は米国が拒否権を行使して、パレスチナの国連加盟を勧告する決議案を否決した。米国のロバート・ウッド国連代理大使は拒否権を行使した理由を「イスラエルとパレスチナの紛争を恒久的に解決する和平合意が必要だ」と説明したが、米国はパレスチナ問題の二国家解決を主張しているだけに支離滅裂だ。反対は米国だけ、イギリスとスイスが危険し、日本を含む12カ国が賛成した。これに対してイスラエル外務省は賛成した国々の大使を呼び出し、抗議することを表明した。外務省報道官は、パレスチナの国連加盟は「テロリズムへの褒美となる」と語ったが、イスラエルのほうがハマスよりもはるかに大規模なテロを行っていることは自明のことだ。

「人間の歴史は 虐げられた者の勝利を 忍耐づよく待っている」-タゴール 

 イスラエル国家が成立してから世界の作家たちはイスラエルによる人権侵害に強い非難の声を上げてきた。フランスの哲学者・作家のサルトル(1905~1980年)は、ミュンヘン・オリンピック事件を見て、パレスチナ人の暴力は彼らが置かれた「不可能、絶望」という状況から生まれたものと思うようになった。イスラエルの「国家テロ」に抵抗するテロは支持に値するものであるというのがサルトルの考えだった。国家テロとは占領、土地の収奪、恣意的な逮捕などの行為であり、イスラエルはアメリカ帝国主義の一歯車にすぎなくなったとサルトルは考えるようになった。

サルトル https://notevenpast.org/the-great-betrayal-jean-paul-sartre-and-the-arabs/


 サルトルはとりわけイスラエル軍によるナパーム弾の使用に反発し、それを殺人という犯罪行為と考え、イスラエルのエルサレム併合を拡張主義の「狂気」と考え、強力な反動勢力がイスラエル政治を支配しつつあり、和平の可能性を奪いつつあると思うようになった。

 このように1970年代にサルトルが観察し、考察したことが現在のパレスチナ問題ではいっそう顕著になっている。イスラエルの極右の「狂気」は和平の機会を完全に奪い、占領を当然のものとして行い、土地を収奪し、恣意的な拘束を行い、ガザで大量殺りくを行う国家テロは日常茶飯事的というよりも「常識」となっている。

 ノーベル文学賞を受賞したドイツの作家ギュンター・グラス(1927~2015年)は、「イスラエルの核保有をアメリカは黙認する。ドイツはイスラエルに核弾頭の搭載可能な潜水艦を供与してイスラエルを支援する。これが中東の平和を危なくしている」と欧米のイスラエルの核兵器保有に対する姿勢を激しく批判した。グラスは下のような詩を書き、欧米の偽善や二重基準を批判した。

ドイツの作家ギュンター・グラス https://sputniknews.jp/20150413/190989.html


そして認める;わたしはもう黙らない、
わたしは、欧米の偽善に嫌気がさしているからだ;
これに加えて望みたいのは、
大勢が沈黙から自由になり、予見できる危機の責任者に
暴力の放棄を迫り、同時に国際機関により、
イスラエルの核の潜在能力とイランの核施設の妨げのない、
永続する管理を、両国政府が承認するよう根気よく要求することを
そうしてのみ、イスラエル人とパレスチナ人のすべてが、
さらに、狂気に占領されているこの地域で
密集し、敵対しながら生きているすべてのひとびとが、
そしてついには、わたしたちみなが助かるのだ

http://tkajimura.blogspot.jp/2012/04/blog-post_05.html

 フランスの作家アニー・エルノー(1940年生まれ)は、2022年にノーベル賞文学賞を受賞した際に「今回の受賞であらゆる社会の不平等と闘い続ける責任を負うことになった」と述べ、抑圧された人々のための活動を行っていく決意を示したが、彼女はイスラエルに対するBDS(ボイコット、投資撤収、制裁)運動の熱烈な支持者として知られる。エルノーは、ジョルジュ・イブラヒム・アブダッラー(1951年生まれ)の釈放を要求している。アブダッラーは、1980年に「レバノン革命軍」を創設し、アメリカの武官チャールズR.レイとイスラエルの外交官ヤコブ・バリスマントフを殺害した罪で現在、フランスのラヌムザン刑務所で終身刑の罪で服役しているが、エルノーはレイがCIAのエージェントで、またバリスマントフ氏がモサドの要員であり、アブダッラーの行為はパレスチナの植民地化に抵抗したものであったと擁護している。

アニー・エルノー原作 「シンプルな情熱」 フランスの作家アニー・エルノーの自伝的な小説を基に、恋に身を焦がす女性教師の姿を描いた恋愛ドラマ。妻がいる年下のロシア人外交官と恋に落ちた教師が恋に溺れ、相手のことが片時も頭から離れなくなる。 https://www.cinematoday.jp/movie/T0026197 画像は http://www.uedaeigeki.com/past/8675/ より


 日本の作家・村上春樹は2009年にイスラエル最高の文学賞である「エルサレム賞」を受賞した際に、授賞式の記念講演で「壁と卵」の比喩を用いてイスラエルの対パレスチナ政策を批判した。壁は強大な軍事力を持つ体制、卵はそれにぶつかり割れる個人を象徴するが、「私は常に卵の側に立つ」とパレスチナ人への共感をイスラエルのシモン・ペレス大統領(当時)の前で語り、「壁の名前は、制度である。制度はわたしたちを守るはずのものだが、時に自己増殖してわたしたちを殺し、わたしたちに他者を冷酷かつ効果的、組織的に殺させる」と述べた。

村上春樹の言葉 http://blog.livedoor.jp/yaguchi16/archives/53046629.html


 文学は世界の世論形成に重要な影響力をもつことは明らかだが、イスラエルによる民族浄化の現状を見て、世界の作家・文学者たちの声が理不尽な現状を変え、虐げられた者たちに勝利をもたらすよう訴える作家たちが続くことを願わざるを得ない。

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