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不毛な報復と、アジアの人々は「復讐」を考えなかった

 イランのイスラエル攻撃についてイスラエルが報復を考えているようだが、イランの攻撃はイスラエルが4月1日にシリア・ダマスカスのイラン大使館領事部を爆撃してイランの軍関係者などを殺害したことに対する報復として行われたもので、イランの報復的攻撃はイスラエルが自ら種を蒔いたものだ。報復の応酬はキリがなく、その規模を拡大させるだけでまったく不毛なものだ。イラン革命防衛隊の参謀総長も「われわれの攻撃はこれで終わりだ」と語っている。

 広島の被爆体験を英語で語る小倉桂子さんがいわゆる「イスラム過激派」のテロについて「どんなにひどいことをされても人を恨んだり、報復を考えたりしてはいけません。私たち広島の人間はアメリカに報復を考えることはしませんでした」と語っていたことを思い出す。日ごろ、過激派のテロと欧米諸国による報復攻撃の繰り返しのニュースに接してきただけに、ハッとする思いだった。近年報復の連鎖を招いてきたのは、過激派のテロが起こるたびに発生してきた欧米諸国の報復爆撃で、その中で一般市民が犠牲になる事態になると、さらなるパワーを過激派に与えてきた。

英語で被爆体験を語ることは大変貴重だと思う 小倉桂子さん https://news.ntv.co.jp/n/htv/category/society/ht5cd8ed1908df4cd1aa9fbd4e58961d93


 サンフランシスコ講和会議にパキスタンの外務大臣で、19世紀英領インドで生まれたイスラムの改革運動のアフマディーヤの敬虔な信徒であったザファルラー・カーン氏は、「日本の平和は、正義と公正によって維持されなければならず、復讐や反発の気持ちを抱いてはいけない。将来、日本は世界で社会的、政治的な重要な役割を果たすことになるであろう。日本は輝かしい未来を持っている国であり、必ず平和を愛する人々なのだ。」と日本に対する公平な処遇を訴えた。(パキスタン大使館のサイトより)アフマディーヤは、すべての人々の平等を説き、人間の内面における闘争、努力(=ジハード)を重視し、武力による戦いを否定した。ちなみに、アメリカ黒人のジャズ・ミュージシャンの多くはこのアフマディーヤの信仰からイスラムに接するようになっている。

ザファルラー・カーン・パキスタン初代外務大臣 https://en.wikipedia.org/wiki/Muhammad_Zafarullah_Khan


 時代が下って2015年11月25日、東京都・台場で開催されたアフマディーヤの大会で、アフマディーヤ第5代カリフ・ミールザー・マスルール・アフマド師もザファルラー・カーン氏のサンフランシスコ講和会議でのスピーチは日本に科せられそうとした不当な制裁を非難するものであり、その考えはイスラムの聖典クルアーンと預言者ムハンマドの人生に基づく寛容に満ちたものであると発言している。

 サンフランシスコ講和会議では他にもスリランカ代表団のJ.R.ジャヤワルデネ氏(後に1977年に大統領に就任し、仏教と民主社会主義による統治を主張した)が「(前略)大師(ブッダ)のメッセージ、『人はただ愛によってのみ憎しみを越えられる。人は憎しみによっては憎しみを越えられない。実にこの世においては怨みに報いるに怨みを以てしたならば、ついに怨みのやむことがない。』(中略)そうであるから我々は、ソ連代表の言っている、日本の自由は制限されるべきであるという見解には賛同できないのです。」と述べている。

鎌倉大仏のそばにあるJ.R.ジャヤワルダナ初代スリランカ大統領の顕影碑・にしゃんた氏作成 https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/3284b8a8e8a6f04785c372345f08171d9c7573f5


 2015年、ISに後藤健二さんたちが殺害されると、安倍元首相は「テロリストたちを決して許さない。その罪を償わせるために国際社会と連携する」と述べたが、これに対して「ニューヨーク・タイムズ」では「日本の平和主義からの離脱、安倍首相は殺害に対する報復を誓う」(Departing From Japan’s Pacifism, Shinzo Abe Vows Revenge for Killings)」という見出しの記事を掲載した(同紙2月1日)。


 この記事の中で安倍元首相は「テロリストに代償を払わせる“to make the terrorists pay the price.”」と語っていた。報復的ニュアンスの言葉を口にしたりすることは、過激派の強い反発を招き、日本人の安全をも損なうことになる。日本人は欧米やイスラエルのような復讐の論理ではなく、アジア的な平和の発想で暴力を克服すべきだ。


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