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雇用には開示と冒険が必要だ

米国における派遣雇用は、景気の先行指標の1つです。雇用者数の増減が景気循環に連動しやすい事は米国経済の特徴ですが、なかでも派遣雇用は雇用全体の動きに半年から1年程度、先行して動く傾向があります。将来の景気や業績をいち早く知りたい投資家や政策当局にとって、派遣雇用は貴重な判断材料です。

新型コロナによる雇用危機では能力のある従業員を失う方が、長期的に競争力が落ちるとの考えが投資家の間に広がる。

さて近年、投資家の関心が企業の長期的な成長力に向かっています。雇用重視の経営姿勢もその評価軸になるとの事ですが、派遣雇用をはじめとした非正規雇用に対する企業の姿勢にも、株主は注目したほうが良いと思います。

これは、景気予測における派遣雇用と同じように、派遣雇用の削減を業績悪化や株価下落のシグナルとして活用するという意味ではありません。

日本では現在、非正規職員から正社員への転換や、同一労働同一賃金への取り組みが、法令的な裏付けをもって促進されています。こうした中、非正規雇用の割合が低下していない企業や、非正規雇用の平均賃金が上昇していない企業は、前掲の記事の文脈で言えば、社会課題に向き合っておらず、長期的な成長は見込めないとして、株主から厳しい評価を受ける可能性があります。

企業価値を高めたいと考える経営者は、非正規雇用に対する取り組み姿勢を積極的に開示する事で、株主からの理解と評価を受けるのではないでしょうか。

もっとも私は、非正規雇用の割合をゼロに近づける事が、企業経営にとって長期的に望ましいとは思いません。非正規雇用には一定の社会的役割が存在しますし、兼業・副業が容認される中で非正規雇用の位置付けも大きく変わりつつあるからです。

むしろ、非正規雇用を経営の中枢に積極的に取り込む姿勢が、今後の日本企業に求められている気がします。終身雇用・年功序列の正社員にありがちな「しがらみ」が無い分、非正規雇用のマネジメント職のほうが大胆な人事・組織の見直しが可能です。

若い頃にお世話になった上司をリストラしたり、カリスマ経営者が立ち上げた組織を廃止する事は、新卒生え抜きの正社員やサラリーマン経営者には相当困難でしょう。人事・組織改革の陣頭指揮を非正規雇用のエキスパートに委ねるという冒険心が、今後は必要になると思います。



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