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あんたは橋の下から拾ってきた子なんやで。

何とも物騒なタイトルであり、パワーワードだ。
昭和生まれは結構な頻度で、親からこういった意味の分からぬ冗談を言われて育った方が多いのでは?

あと、関西の子限定かもしれないが。
ちょっとあほなことをしたりすると、
「あんた吉本入れんでー!」と言われたりする。
それは願ったり叶ったりだ。

かくいう私もこの謎の「橋の下から」冗談を時折言われては、悲しんだり、憤慨したりしていた。
うちの両親はそれを言われて、凹んだり怒ったりする私の反応を見て楽しんでいた。
そして冗談!冗談!となるまでが、ワンセットなのだけれど。

やったーーーーー!喜んでジャンプして、ほんまの親探そっ!!

今の私ならそれ位の返しはいとも簡単にできるけれど、両親の事も大好きだったので、できる訳も思い浮かぶ事もなく。…純粋だった。

「どこの橋なん?」とクリティカル反撃をした事はある。
背景を用意していない冗談なので、両親は慌てて河川敷!とか言っていた。
拾ってもらう気ゼロスポットやで。恐ろしや。

そしてそんな親の悪い冗談を何度となく、受け育ってしまった私は全然信じなくなり、鼻であしらうようになって、親も手応えがなくなり、悪い冗談を言うのをやめた。

「あんたは橋の下から拾ってきた。」という冗談に振り回され、純粋無垢な心を痛めて。悪い冗談はしょうもなっ!と思っていたのに…。

やらかし、やらかす、やらかしてしまう。

我が子ではなく。
可愛い甥にやってしまったのだ。

甥っ子が2、3歳の頃に病を患い3ヶ月位入院した事がある。
姉は泊まりで付き添いをずっとしていて、私は姉をサポートするのと、可愛い甥っ子の為に毎日毎日、通い続けた。
彼の大好きなポケモンのおもちゃ付き菓子ひと箱を欠かさずに持参して。
ちっさいけど、熱い魂の塊みたいな彼。

不慣れな入院生活で自我を失ってもおかしくないのに、嫌な点滴の時は小さな身体で全力の猛抵抗をしていた。
とれたてピチピチの海老の如く、のたうちまわり、腕をとられないようもがいた。
また別の時は獰猛な虎になり爪をたてた。
海老の時も虎の時もギャン泣きなのは言うまでもなく。
彼の全力の猛抵抗はいつ見ても涙が勝手に流れて困った。

そんな可愛い海老や虎な彼が、私の来るのを楽しみに毎日待っていてくれた。
いや、正しくは新しいポケモンをゲットする為に楽しみに待っていてくれたのだろうけど。

日々の様子を見ていてなのか、同室の親御さんや見習いの看護師さんに
「お母さんはあなたですよね?付き添われてるのが姉妹の方ですよね?」
という謎の勘違いをされた事がある。
どう考えても泊まり続けている姉が母であろう。謎過ぎる。
ちょっと何だか聞きずらい事をよくもまぁ聞いてきたなと、今になって思う。

彼のポケモンは大きなケース山盛りになり、折り紙やお絵描きが上手くなって、私の登場にキャーとなっていたのが、「おーきたか。」程度のテンションになった頃に無事に退院した。
病も完治。

それから、時は流れ…

ある日他愛もない会話を小学生の甥っ子としている時に、

「甥っ子は、お姉ちゃんの子じゃないで!訳あって私がお姉ちゃんに預けてるねん!」

「嘘やんー?!」

「ほんまほんま!だから入院してる時も、みんなからほんまのお母さんですよね?って聞かれて困った〜」

「ふーん」

甥っ子のうっすい反応から、全然信じてなかったな。そりゃそうか。反省もなく冗談は冗談で済んだと思っていたのだけど。

後日、姉から怒られる事になる。

「ママはママで、るいがほんまの僕のママなんやろ?」

姉は、必死であれはるいのアホな冗談やで!そんな訳ないやろ!と話をして誤解を解くのが大変だったようだ。

それからたまに甥が姉に叱られたり、姉に不満を感じた時等に、「るいが僕のママ?」と姉に聞いてくる事があったみたい。

ううっ、ごめん。ごめんよーーー!!!

我が子同然の様に思い関わりをもってきていた為、甥愛のなせる技…いや、ただただ愉快犯!
で純粋な心を弄んでしまった。
まさかのまさかで信じるとは思いもしていなかった…。

リアル冗談過ぎた。

それから時を経て、彼が高校生になった時に懲りもせずまた言ってみたら…驚きの顔をしていた。

えええ!?えっ?

こっちが驚く!!また信じる?
まだ信じてくれる!?もうしょーもなー。と言われるの覚悟で言ったのだけど…。
何て可愛い奴なのだ。

その後姉に本気でまたキレ気味に叱られたことは言うまでもない。

__________

そんな可愛い甥が、いま人生の節目に立っていて、この何ヶ月間か甥の人生の大きな波の動きみたいなものを眺めていた。

姉家族の動き。ざわざわ。さまざま。
姉の話もふんだんに聞いた。

彼はなかなか理不尽な方向へと歩みを進めるようだ。

甥にもその間何度か会ったけれど、いい顔していた。
本当は言いたい事も沢山あるけれど。

道しるべを周りが指し示した所で、彼の人生なのだから本人の思うように進むしかない。
講釈垂れれる程わたしも偉くない。人生まだまだわからない事だらけだし。

ずっと応援しているよ。
冗談の母は、君の幸せを心から祈っています。


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