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私たちが絶対に忘れちゃいけない事

8月。

この時期になると読みたい本がある。

青葉学園物語 さよならは半分だけ 吉本直志郎

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青葉学園物語は全5作あるのだけど、その2作目が本作だ。私が小学生の時の読書感想文コンクールの課題図書の中の一冊だった。私も当時この本で感想文を書いた。

それ以来、この本が好きで全5作揃えて度々読んでいた。だけど、手放してしまい後悔していたところ、復刊され5冊手に入れ再び読むようになった。

今回、小学生の時以来でこの本の感想文を書いてみようと思う。

青葉学園は広島にある養護施設だ。戦争や原爆で身寄りを失くした子供たちの為の施設だ。この物語は戦後7年ほど経った頃の設定になっている。そのため、戦災孤児の他にも様々な理由で預けられている子も増えてきた頃だ。

この物語の主人公は、青葉学園にある複数の寮の一つであるなつめ寮の子供たちだ。夏休みに入った子供たちの川遊びのシーンから物語は始まるのだけど、そこに新しくやってきたきょうだいを巡る、一夏の物語。

学園の子供たちはみんな明るい。それぞれに事情はあるが、普段はそんな事はおくびにも出さない。そこへ新しくやって来た2人は、他の子供たちとはちょっと違うタイプの子だった。品があり、優しい2人。3年生の弟と6年生の姉。2人のお母さんは胸の病気で入院しており、今まで育ててくれていたおばあちゃんが亡くなってしまい学園にやって来たのだ。

とても腕白で、ふざけが過ぎてしまう所もあるけど、仲間思いの男の子たち。優しい女の子たちと、優しい寮母さん。そんなみんなに囲まれてしだいに馴染んでいく2人。

戦後まもない時代の話。私も聞いた話や本でしか知らない頃だ。戦災孤児となったみんなは、学園に来るまでどんな気持ちだっただろう。あの出来事の直後の広島で自分だけ取り残されたら。想像しかできないけれど、もし私がその状況になったなら彼らの様になれるだろうか。

本の中では直接、戦争の事は出てこない。けれど、話の端々に戦争の事を思わせるような描写がある。アメリカ軍の供出品の缶詰めだとか朝鮮人(原文ママ)のクズ屋さんだとか、焼けトタンの屋根の住宅だとか。

本の著者である吉本直志郎さんは、この学園で子供時代を過ごされたのそうだ。だから、描写が詳しく、いきいきしていて、その様子が目に見える様に感じる。

この物語は夏休みの話なので、川で捕まえた魚を焼いて食べるシーンが数回出てくる。それが、臨場感たっぷりで、自分も一緒に体験している気分になる。私は、川遊びもあまりした事が無く、魚を捕まえる事もした事が無い。だから、とても楽しそうに感じる。捕まえて、すぐに焼く魚。その魚を焼くコツも、彼らは熟知している。本を読んでいる私にも、その香ばしい香りと味が伝わってきそうだ。

また、男の子たちが繰り広げるオイタも臨場感たっぷり。ここでも、自分も一緒に経験している様だ。夜中に食品庫に忍び込んで、食品を持って行ったり、夏中クズ鉄を求めて街を歩き回ったり。この集めたクズ鉄をクズ屋さんに持って行ってお金に変えるのだ。変えたお金は、当初の予定である自分たちだけで楽しむ街での豪遊と代わってしまい、寮のみんなで楽しむお菓子と花火、それから仲間入りしたきょうだいの洋服代になったのだけど。

思惑が外れて残念だっただろうなと私は思ったのだけど、新しい使い道は男の子たちも満更ではないようだった。やっぱり、自分たちだけで独り占めするより、みんなで使ったほうが気持ちいいのだろう。

夏が終わる頃、きょうだいのお母さんが急変して亡くなってしまう。

母親になった今、改めて読むと母と子の両方の気持ちが分かり涙が出る。

お母さんは、きょうだいと離れる時に臍の緒が入ったお守りを首に掛けながら、「次に会う時まで、さよならは半分だけね。」と声を掛ける。

でも、その約束は叶わなかった。

お母さんのお骨を抱いた姉は、別れる少し前の事を思い出す。

お母さんは、外で働き、内職もする。それでも貧しく、いつもみんなお腹を空かせていた。そんな時、もらった2つのトマト。思わず、1つつかんだ姉。お母さんに見られた時、思わず走って逃げ出してしまう。

お母さんは胸が悪いのに、走って追いかけてくる。それは叱るためではない。姉の事を大事に思うから。だから、追いかけた。

家に戻ると、お母さんはお皿にトマトを入れ、塩を添えて姉に食べるように言った。お母さんは泣いていた。姉は、食べる事もできずにただトマトを見つめていた。

今なら、私はどちらの気持ちも分かって胸が締め付けられる。

姉は、みんながお腹が空いているのに、自分だけ食べようとした事に罪悪感を感じている。

お母さんは、自分だけの稼ぎでは子供たちにお腹一杯食べさせてあげられない罪悪感を感じている。

どちらも悪くない。それなのに、どちらも罪悪感を感じてしまう。それは、きっと一生2人に消える事の無い思い。

お母さんは、別れる時また会えると言ったのに。今は骨になってしまった。

姉は、1人になった時やっと泣く事ができた。弟の前では泣けないから。でも、弟の所に戻るときには元の姉の顔に戻る。

姉だってまだ子供なのに、切な過ぎる。弟のただ1人の身内として、子供なのに気丈にふるまっている。私だったらどうだろう。私にも弟がいる。そんな状態になったとしたら、あんなに気丈でいられるだろうか。今の時点でも自信は無い。

学園に戻ってきた2人を寮のみんなは優しく迎える。

いつもの川に、女の子たちも寮母さんも来た。その時、弟は初めて大きな魚を1人で釣り上げる。はじめはなかなか釣り上げられずに泣いていたけど、みんなに励まされ頑張って1人でやり遂げた。弟の成長を姉も、みんなも喜び合う所で物語は終わる。

これは児童書だけど、大人こそ読む本だと思う。子供の頃には分からなかった事が、今読むとよく分かる。

物語には書かれていないが、この本を読むとあの時代の愚かさがよく分かる。こういう時に辛い事になるのは、立場の弱い者だ。女性や子供がその立場になる事が多い。あの時代の事は、どんなに月日が経ったとしても、私たちは絶対に忘れちゃいけない事だと思う。あの学園の子供たちのような戦災孤児をもう二度と出さないためにも。


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