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Stanley Turrentine - Cherry (1972)

 本作はスタンリータレンタインとミルトジャクソンというブルースが得意な2人のコラボ作ということもあってかホーンやストリングスアレンジを排しCTIにしては作り込みを甘くしてブルースフィーリングの濃いアドリブを引き出すことに成功しています。個人的にはスタンリー、ミルトの両名がCTIに残したアルバムの中で一番気に入っています。
 余談ですがもしここにウェスがいたらどうなっていたのか。生前もっとアドリブを重視したアルバムを作ればと後悔していたクリードテイラーなら一枚はアドリブを入れたアルバムを作るはずですし、ウェスファンクラブ会長を自称したミルトジャクソンとの良いコラボレーションが期待出来ます。生前共演のなかったスタンリーとの相性は未知数ですが曲によってスタンリーが入ったり抜けたりすればいいアルバムになったのではないでしょうか。 

メンバー
スタンリータレンタイン:テナーサックス
ミルトジャクソン:ヴァイブ
ボブジェイムズ:ピアノ、エレピ
コーネルデュプリー:ギター
ビリーコブハム:ドラム
ロンカーター:ベース
ウェルドンアーヴィン:アレンジ
あまり知られていませんがウェルドンアーヴィンがアレンジを担当しています。良い人選ですがCTIで仕事をしたのはおそらくこれだけ。いいアレンジをしているだけにもったいないです。コーネルもCTIでは珍しい人選。CTI常連のエリックゲイルは捌ききれない仕事をコーネルに回していたようなので本作のレコーディングもエリックから回ってきたと思われます。

Speedball
リーモーガンの曲で8ビートの軽快なブルースナンバー。タレンタイン、ミルト、コブハムとソロが回っていきますが皆軽快ながらもブルースフィーリングいっぱいな他、それを支えるファンキーなリズムギターもかっこいいです。

I Remember You
バラードナンバーで初めはミルトが続いてスタンリーがテーマを吹きますが互いの演奏のバッキングをしないので共演と言うよりは別別に演奏したような印象を受けます。

The Revs
ミルトのオリジナルナンバー。リフとドラムのコール&レスポンスの形式の曲です。タレンタインの豪快なサックスがかっこいいです。ミルトのソロではコーネルのリズムギターも聴けますがスタッフの頃と比べると少しぎこちなく聴こえます。ボブのソロのあとはコーネルの短いソロ。

Sister Sanctified
ウェルドンアーヴィン作のシンプルでノリの良いブルースナンバー。歯切れよく鳴るシンバルやシンプルなテーマ等初期のクルセイダーズを思わせるものがあります。あまりソロを取らせてもらえず少し居心地の悪そうだったコーネルもここでは曲にあったブルージーでクセのあるソロを披露しています。

Cherry
メロウかつスローテンポのバラードナンバー。スタンリーの歌うようなおおらかなサックスがとても切なくて良いです。

Introspective
ウェルドンアーヴィン作。アップテンポのブルースナンバーですがビリーコブハムのシャープかつ力強いドラムはモダンな響きです。ただボブのエレピはあっさりしていてバッキングや短いソロはいいですが長いソロをとっていると物足りなく感じます。

コネクション:いソノてルヲさんのライナーを読む
 僕の持っているLPは1972年にいソノてルヲさんが書いたライナーがついています。いソノさんはウェザーリポートの72年のライブのMCを務めた人物でATCQがそれをサンプリングしたことでも有名です。その活動はライブMC、ラジオDJ、ライナー等多岐に渡っています。ライナーではタレンタインをタレンティンと紹介し最も好きなタイプといい「猫も杓子もコルトレーン、コルトレーンという中で断然としてリズムエンドブルースに流れを汲む豪放なプレイに終始します」(原文ママ)と評価しています。ラムゼイルイスのライナーでもThe In Crowdがチャート入りしたとき嬉しかったと書いておりノリのいいジャズが好きだったようです。他にもリーモーガンの死が今春の出来事だったりビリィコブハム、ボブジェイムズのプロフィールがキャリア初期のものだったりと読んでいて時代を感じてとても興味深いです。こういう作品やミュージシャンへの愛を感じられるうえに分かりやすくて面白い解説は読んでいて楽しいし書いていて参考にしたくなります。