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映画の感想『フェーズ6』

感染症を題材とした映画は古今色々とある。
四半世紀以上前、中学生だった僕はある日、社会科の授業中に担任の宇都宮先生が個人的な趣味で『アウトブレイク』を上映するという余興に付き合わされたことがある。

学校で義務的に観ることを強いられる映画って基本的に退屈なんだけど、この映画がなかなかの傑作で、存外に面白く、身を乗り出すようにして観賞したのを、まるで四半世紀以上前のことのようにおぼえている。

つまり今はもうほぼ記憶がない。
たしか猿を媒介としてヤバい病気が蔓延する感じのアレだったような。


コロナ禍「あるある」が割と挿入された佳作

さて。今回は『フェーズ6』という映画を観た備忘録を書いておきたい。
2009年制作のこの映画、致死率100%の感染症の蔓延しきったアメリカを舞台に、登場人物も合計でせいぜい10人かそこら程度しか出ない、非常に人物密度の高い作品になっている。

物語がスタートした時点で既に感染症が各地に蔓延しているといった状況。主役の兄弟、兄の彼女、弟の女友達の4人はある海岸を目指して車を走らせるも、途中でガソリンが尽きてしまい、途中ですれ違った父親と感染者の娘が乗る車の強奪を企てるという結構物騒な走り出しのロードムービーだ。

父子は病院に特効薬があるという情報を掴んでおり、なんやかんやあって主人公らと目的地を一旦その病院に変更するが、結局そこには感染症の進行を3日程度遅らせることの出来る薬品があるのみ。

約束は果たしたとして、一行は途中で拾った父親と、既に感染も末期に差し掛かり、歩いてトイレにも行けない小さな娘が車から離れたタイミングで病院を後にするところがちょっと悲しい。

父親も娘を抱きながら、背中越しに車が走り去る音を把握し、それでも心配をかけまいと、一緒に歌をうたうのだ。
父子の末路は描かれないが、十中八九死んだという形になる。

一行の中にも感染者が出てしまい

打つ手のなくなった父子を尻目に、主人公たちは本来の目的地に車を向かわせると言った具合に、途中で生存者に出会っては事情があって離れるといった塩梅で話は進む。

が、そのうちに立ち寄ったゴルフリゾートで主人公兄弟の、兄の方の彼女の感染が発覚。
兄は苦渋の決断で、彼女に対して三日分の食料と水を渡し、路上で強引に車から引きずり落としてしまう。

酷い彼氏にも思えるが、弟も同乗する車の中で感染が広まっても恐ろしいので、これはまあ、仕方ない。

もっとも、終盤でその兄も感染が発覚。
一応ストーリーとしてはまず拾った父子の娘のほうから彼女に感染が蔓延し、その彼女と接触が密であった兄も感染してしまう、という形になるが実際にはどこで感染したのかは分からない。
ここにパンデミックの怖さも描かれている。

いわゆるユートピアを目指したロードムービーながら徐々にその道のりはしんどいものとなり、ようやくたどり着いた海岸にも最早特に希望もなく、結末こそ描かれないまでも、生き残った登場人物である弟とその女友達(そんなに仲が良くないのがまた…)が遠からぬ将来、ウィルスに打ち負ける未来も容易に想像できてしまう。

あと、ゴキブリが苦手な人や犬が死ぬとこを見たくない人は避けた方がいいかもしれない。

コロナ禍突入よりだいぶ前の映像作品だけど、感染対策描写は割と丁寧

本作は2009年公開作品で、新型コロナウィルス感染症の蔓延よりもだいぶ早い時期に誕生している。
にも関わらず、車内など密室になりやすい場所では換気を徹底しているし、感染者と一緒にいるシーンでは主要人物全員がマスクを着用している。

ゴルフリゾートでは全身を防護服に包んだ集団も登場するし、ことあるごとにアルコールで手指を消毒する様子も描かれる。

総じて防疫リテラシーの高い、変なところで丁寧な作品だという印象を今になって抱いてしまうし、それこそ現在の私たちが観るとより納得できる作品にも感じられる。
おそらく専門家の監修を受けて制作していたのだろう。

上映時間も85分と短めなので、暇なときにでも視聴してみるのがいいかも。
ネトフリで観られるので。

ちなみに原題は『Carriers』。
キャリア。つまり保菌者を意味する。

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