古語訳「Grandfather's Clock(大きな古時計)」

おほぢの時計は過重なれば、九十《ここのそ》まで床に置かれぬ。丈《たけ》はおほぢより半《なか》ば長けれども、一匁《もんめ》さへ異ならず。
おほぢの出で来し朝に贖《あが》はれ、重宝にして誇りなりけり。

然《さ》れど、直《ひた》と止《や》みてまた動くことなし、おほぢ果てぬるすなはちに。

九十年《ここのそとし》息《いこ》ふことなく、かとんかとん。かとんかとん。おほぢの一期《いちご》刻みて、かとんかとん。かとんかとん。

然《さ》れど、直《ひた》と止《や》みてまた動くことなし、おほぢ果てぬるすなはちに。

【 現代語訳 】
祖父の時計は棚に置くには大きすぎたので、九十年間、床に置いてあった。
高さは祖父の背丈よりも半分高かったが、重さは1ペニーウェイトも違わなかった。祖父が生まれた日の朝に購入されたもので、いつも祖父の宝で、誇りだった。
だが、急に止まり、二度と動かなくなった。祖父の死去と同時に。
九十年間、休むことなく、チクタク、チクタク。祖父の人生を一秒毎に数えて、チクタク、チクタク。
だが、急に止まり、二度と動かなくなった。祖父の死去と同時に。
【 原文("Grandfather's Clock") 】
My grandfather's clock
Was too large for the shelf,
So it stood ninety years on the floor;
It was taller by half
Than the old man himself,
Though it weighed not a pennyweight more.
It was bought on the morn
Of the day that he was born,
And was always his treasure and pride.

But it stopped short
Never to go again,
When the old man died.

Ninety years without slumbering, tick, tick, tick, tick,
His life seconds numbering, tick, tick, tick, tick,
But it stopp'd short, never to go again
When the old man died.

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