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マッチングアプリをはじめた日

私が初めてマッチングアプリに登録したのは今からちょうど5年前、秋の日の昼下がりのことでした。

今でもあの日のことは朧気ながら思い出せます。

私の気持ちとは裏腹に、爽やかに晴れた日。
横浜駅から出発して、いつもと変わらずゆったりと揺れる電車。
何度もかかってきて、最終的に留守番電話になったアルバイト先からの電話。
緑の光が差し込む終点の駅。
とても途中で降りられず、ぼうっと窓の外を眺めているうちに、私はそんなところまで来てしまったのでした。

誰もいなくなった車内で、恐る恐る留守電の再生ボタンを押して耳を近づけると、存外優しい声で「何かありましたか?大丈夫ですか?今日は他の先生が出てくれることになったので、体調が悪いようだったら、お休みしてください。でも、心配しているので、連絡を下さい。」と吹き込んでありました。

私はフリーターで、放課後等デイサービスの指導員でした。
不登校の子や、発達障害を持つ子たちを相手にする仕事だったので、先生の方もそういった対応には慣れていたのでしょう。
安堵した反面、無断で休んでしまった罪悪感と情けなさで胸が一杯になりました。
生きづらさを抱える子どもたちの支援をしたい、なんて偉そうなことを言って働きながら、こんな時に自分の精神のコントロールもできない。私の個人的な事情は子どもたちには何の関係も無いのに、平静を装って彼らの前に立とうとすることすらできない…。

「美月が先生ねえ」

まるで「お前に先生なんて務まってるの?」とでも言いたげな… そんな言外のニュアンスを含んだ彼の言葉が頭をかすめます。

その日はじめてアルバイトを無断欠勤した原因は、他でもない、その元恋人との再開でした。
ついさっきまで… 朝まで私たちは時間を共にしていて、今日はこれからアルバイトだからと、横浜駅で別れたのです。


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