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一文物語集 ポケットに入る宇宙の万華鏡 上 その2

本作は、手製本「ポケットに入る宇宙の万華鏡 上」でも読むことができます。

1

撮った写真を見せることはしないが、嫌なことを心から撮り抜くその古い写真館の店主は、明るくなってしまった暗室で、またか、とボヤき、現像される写真は光映えする人の写真ばかりだった。

一文物語挿絵_20180201


2

少女が川で拾った石に、終生水やりをしていると、石は大きくなって植物のように芽を生やし、葉を広げ、ついに枯れることのない石の花を咲かせた。

一文物語挿絵_20180202


3

剃刀を入れられた風船を手渡され、割らないように届けてきてくれと頼まれて、やっとの思いで一歩進む。

一文物語挿絵_20180203


4

数々の詩をまとめようとその詩人は、針と糸で自分の詩を刺繍して詩集を作り上げた。


5

個性が求められる時代にも関わらず、汎用かつ大量生産された物ばかりしか持っていない彼女は、ペンや携帯電話、鞄、部屋の壁、車の外装、内装などに、一度着て満足した普通の服を、サイケデリックな組み合わせに縫い合わせて着せている。

一文物語挿絵_20180205


6

誰も寄りつかない場所にあるマンホールに入ると、地底水族館が広がっていて、優雅に泳ぐ化石の魚たちの後を、骨恐竜が口を開けて追いかけている。

一文物語挿絵_20180206


7

描いた魔法陣から巨人の手が出てきてしまって、慌てて魔法陣を消したら、片手だけが切り残されてしまい、巨大な手が町を徘徊している。

一文物語挿絵_20180207


8

やっと雪が溶けると、その下から真っ黒になったバナナが一本出てきて、どうしてそこに存在しているのか気になって、死ぬまで悩み続けている。

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9

天女が鉄塔の電線に羽衣を引っかからせてしまい、困っている。

一文物語挿絵_20180209


10

夢の中で長く歩いて二手に分かれる道に差し掛かり、どちらに行っても目が覚める気がして、もと来た道を戻ると、やっぱり目が覚めてしまったが、眠りについた時刻と変わらなかった。

一文物語挿絵_20180210


11

その言葉は呪いだから言ってはいけない、ときつく言われて以来、それを口にしてはいないが、思い出すたびに、心の中で自分に呪いをかけてしまっている。


12

みんなで砂いじりをしていて、バラの漢字を書くことになったが、誰も書けず、花の絵を描いた。

一文物語挿絵_20180212


13

字がバラバラに積まれた本の荒野を進めども、何もない世界だったので、少年はそれらを拾い並べて、字の上を飛んだり跳ねたり、ワクワクする冒険世界を築いた。


14

職場の同僚の自慢話をすまし顔で聞いているその女性は、心に寄生している醜い獣の奇声を、喉元で堪えている。

一文物語挿絵_20180214


15

苦しい思いをして潜った深海で吸う空気は格別だった。

一文物語挿絵_20180215


16

絵を描くのが面倒くさくなってしまった画家は、先日、通販で買った絵の具を絞り出すと、あらかじめ決まった絵が広がり出し、途端に絵が売れなくなった。

一文物語挿絵_20180216


17

石につまずいたら危ない、ということになり、石を積み重ねることが禁止され、道端の小石ですら丁寧に並べられ、墓や石垣も解体され、川の石ですらも平然と整頓されてしまっている。

一文物語挿絵_20180217


18

保険室の骸骨が持ち出されて、ボールの的にされてはバラバラになるも、何度も組み直されて、骨に響くからやめてくれ、と顎が外れて言うこともできない。

一文物語挿絵_20180218


19

おしくらまんじゅうをして体が温まり、真っ赤に染まったみんなの顔は血みどろで、一人押しつぶされてしまっていた。

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20

空港で出発を待っていると、やはり誰にも見えない入り口に向かって入っていく人々がいて、また彼らも誰にも見えてはいない。


21

若き頃、舞台上で夫婦を演じていた二人は、時が過ぎてお互い独り身になってから、夜の廃劇場に集まってはあの夫婦の続きを演じている。

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22

この中から面白そうな本を教えて欲しい、と友人に頼まれ、床が抜けるくらいの書庫に案内された。

一文物語挿絵_20180222


23

ロボットが頭を抱えているが、首がもげているだけで、機能に問題はないとのこと。

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24

彼は、自分の頭をピストルで撃ち抜くと、銃弾が貫いて広がったお花畑の上を歩いている。


25

深夜、スーツを着た人が、路地にあるたった一つの街灯から降り注ぐ光を浴びて、自分を癒している。

一文物語挿絵_20180225


26

悪いもの、と書かれた見覚えのない箱のふたを開けたら、人の臓器が入っていて、慌ててもう一度開けるとまた違う臓器が現れ、翌週、医者にかかると箱の中で見た臓器が悪いと指摘された。

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27

本を読みながら眠ってしまった彼女が目を覚ますと、本が前髪を食べていて、頭に入れた内容を取り返しに来ている。

一文物語挿絵_20180227


28

虹が竜巻に吸い込まれて、虹色の竜巻から七つの光の道が空を伸びて行く。

一文物語挿絵_20180228

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