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「令和5年度介護事業経営実態調査」結果の考察(特養)

11月10日に「令和5年度 介護事業経営実態調査結果(案) 」が示されました。
この調査は2022年度(R4年度)決算書に基づく国が行う実態調査であり、2024年度(R6年度)の介護報酬改定における基本報酬を決める上でも重要な調査と位置付けられています。


各介護サービスの収支差率及び給与費割合

全国老施協や東社協などの福祉関係団体でも独自調査を行っており、コロナや物価高騰の影響により、全体的に経営が悪化しているというのが共通しているポイントです。
全サービスの平均収支差率は2.4%(対R3年度増減-0.4ポイント)になりました。

今回の調査では、コロナ関連補助金や物価高対策関連補助金を除くと、特養(介護老人福祉施設)の平均収支差率は-1.0%(対R3年度増減-2.2ポイント)、老健(介護老人保健施設)では-1.1%(対R3年度増減-2.6ポイント)、介護医療院では0.4%(対R3年度増減-4.8ポイント)と施設サービスは軒並み経営が悪化しています。
地域密着型介護老人福祉施設(小規模特養)においては、-1.1%(対R3年度増減-2.2ポイント)と経営が大幅に悪化しています。


コロナ関連補助金や物価高対策関連補助金を含んでも、特養の平均収支差率は0.1%、老健0.0%、介護医療院1.7%の水準で、本業では儲けが出せず補助金頼みの経営状況となっています。
補助金があっても、一年間の経営成果が収益の0.1%ぽっちでは、建て替え資金や何かに投資するための資金繰りは困難で、事業の継続性なんて担保できませんね。

一方で訪問介護の平均収支差率は7.8%と他サービス事業に比べると高い水準です。
しかし、1行目の「介護料収入」が低額のため、月でみれば236,000円、年間でも約283万円の収支差額ですから、財務省から「7.8%は儲けすぎ!」っと変な指摘をされて、パーセンテージの落とし穴にはまらないよう正しい主張や丁寧な議論が必要だといえます。

特別養護老人ホーム(経年比較)

第38回社会保障審議会介護給付費分科会介護事業経営調査委員会 資料
【資料2】令和5年度介護事業経営実態調査結果(案)より https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001165516.pdf

では、今回の特養の結果について、掘り下げてみていきましょう。

収益について

1行目の「介護料収入」が増えています。

2022年度(R4年度)といえば、2022年2月から9月までは「介護職員処遇改善支援補助金」、10月以降は「介護職員等ベースアップ等支援加算」と名前を変えて、月額平均9,000円のアドバルーンがあがりました(正確には平均9,000円は収入の3%程度の目安額であり、実際は一律9,000円アップではない)。
そのため、「介護料収入」も増えましたが、6行目「給与費」が65.2%(R対3年度増減+0.9ポイント)、34・35行目の「常勤換算1人当たり給与費:介護福祉士、介護職員」をみてもらうと、共に約2.5万円給与水準が高くなっており、「介護料収入」が増えた要因の一つとして「介護職員等ベースアップ等支援加算」が影響していると考えられます。

"要因の一つ"と記載したのは、「介護料収入」が増えたということは「稼働率(延べ利用者数)」が改善したということも考えられるからです。
28行目の「定員」を便宜上31日でかけ、29行目の「延べ利用者数」を割ると、2021年度(R3年度)が97.35%、2022年度(R4年度)が98.18%と稼働率も改善されたことになっています。
しかし、皆さんの肌感覚的に稼働率が改善したという印象があるでしょうか。
地域によっては(特に都市部において)待機者確保が困難な状況になっていること(「地域区分」別集計参照)を踏まえると、稼働率の改善効果というよりかは上記の「介護職員等ベースアップ等支援加算」による影響の方が大きいのではないかと推察されます。

費用について

9行目の「その他」に包含されている事務費・事業費の合計については29.4%(対3年度増減+1.2ポイント)、金額にして月47万円増額となっています(年間では約560万円増額)
それに対応するための18行目「新型コロナウイルス感染症関連の補助金収入」と20行目「物価高騰対策関連の補助金収入」を足しても約31万円となり、費用の増額分と差し引くと、毎月、約16万円(年間では約190万円)も費用が増えていることになります。

上記の収益では「介護料収入」が増えた要因は「介護職員等ベースアップ等支援加算」による影響と述べましたが、職員の賃金に還元されていると考えると、実質「介護料収入」は増えてはおらず、「その他」の費用増により、対R3年度増減-2.2ポイントという大幅な経営悪化に陥ったといえます。

特別養護老人ホーム(地域区分)

第38回社会保障審議会介護給付費分科会介護事業経営調査委員会 資料
【資料2】令和5年度介護事業経営実態調査結果(案)より
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001165516.pdf

地域区分の「1級地」は東京都23区内のみの級地ですが、17行目「差引 ③=①-②(収支差額、収支差率)」は-1.2%と赤字状態です。
3行目にある「補助金収入」には都独自の「サービス推進費」という補助金が含まれているため、他地域に比べても桁が違います。
この「サービス推進費」を含めても、東京都23区内の経営は厳しい(都内の6割の施設が赤字でした)というのが実態です。

稼働率をみると、28行目の「定員」を便宜上31日でかけ、29行目の「延べ利用者数」を割ると、1級地96.2%、2級地が98.13%と、1級地の方が稼働率が低い水準になります。
これは都市部における待機者確保が困難になっているということを物語っているのか、はたまた「延べ利用者数」に誤りがあるのか、どうでしょうか。

特別養護老人ホーム(定員規模別)

第38回社会保障審議会介護給付費分科会介護事業経営調査委員会 資料
【資料2】令和5年度介護事業経営実態調査結果(案)より
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001165516.pdf

定員規模が大きいほど、17行目「差引 ③=①-②(収支差額、収支差率)」は高くなり、スケールメリットがあります。
小規模特養単体では黒字化するのが厳しい状況があるため、事業の効率化を進める上でもサテライト化の条件緩和がなされるとよいのではないかと考えます(例えば、「本体施設から原則20分以内」をオンライン会議システムなどを使用することで40分までに拡大するなど)

まとめ

「令和5年度介護事業経営実態調査」結果のなかでも、特に特養についてみてきました。
コロナや物価高騰による経営悪化というのは耳にしていますが、国調査においてもインパクトになる結果になったのではないでしょうか(当日のオンライン配信を見ていましたが、このままいったら介護事業所ヤバいぞという様子に私は見えました)。
ぜひとも切れ目のない、持続可能な福祉サービス事業の実現に向けて、プラス改定を実現していただきたいと切に願います。

管理人

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