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意思決定できる組織であるか


令和6年度介護報酬改定の全容が明らかになりました。
3月18日にQ&Aの第2弾も発出されましたが、その前に「つべこべ言わずにやりなさい」といわんばかりに、留意事項通知なども発出されています。

今回の改定では「医療連携(緊急時対応・感染対策を含む)」「生産性向上」「介護職員の処遇改善」がキーワードになっていますが、法人・施設の考え方や方針により、運用方法や加算取得の有無のバラツキがこれまで以上に広がるのではないか、と危惧しています。
特に、「介護職員等処遇改善加算」については、配分ルールの縛りがあったことで、法人が違えど、同じサービス種別の施設・事業所での支給額(年収ベース)にさほど大きな差が生じてはいなかったと思いますが、今後はどの職層・職種にどの程度の金額を支給するか、法人の考え方や方針により自由度がかなり増し、突然、2Dの横スクロールの世界から3Dのしかも"オープンワールド"の環境に放り出されてしまうぐらい環境が大きく変わることになります(介護職員等処遇改善加算のシミュレーションソフトも改定内容を踏まえ、バージョンアップしました)。

オープンワールドをどのように歩くか

近頃、もっぱらゲームをしなくなってしまいましたが、最初はストーリーに沿って、ボスを倒してミッションをクリアしたり、珍しいアイテムをゲットしたり、ある程度のレベルに達するまでは枠に沿って進めることが出来ます。
しかし、ある程度ストーリーを進めると、どこに行こうが、どこのボスを倒そうが、どんな珍しいアイテムをゲットしようが、ゲームの進め方がプレーヤーに委ねられていきます。
自由度が増す分、楽しさにつながる人もいれば、「次どうしたらいいんだろう?村人にでも聞いてみる?」と戸惑う人もいるのではないでしょうか。

このような状態を今回の介護報酬改定への対応を当てはめてみましょう。
「協力医療機関と誰が協議し、どのような形で緊急時や感染症対応の取り決めをしていけばよいか」、「生産性向上推進体制加算の要件をどのように満たし、現場の生産性向上やその取り組み成果を実現していけばよいか」、「処遇改善加算を効果的に職員に配分し、職員採用や定着に活かせないか」など、法人や経営層で意思決定してストーリーを進めていかなければ、「報酬改定どうする?」でゲームを進めることが出来なくなります。

「村人にでも聞いてみる?」というタイプでは、「魔物に村が襲われて困っている(魔物がどこの洞窟に潜んでいるのか?)」「"勇者の剣"があればこの扉が開くという伝説が…("勇者の剣"はどこにある?扉を開けて何が起こるの?)」と、結局、自分たちの足で探す(探求する)必要があります。
そもそも、自分たちで作り上げなければならないストーリーを、そこらへんの村人の言葉で決めてしまっては、今後の冒険は続けられないでしょう。

村人の言葉に頼ることなく、例えば経営理念から紐解き、「どのような施設・事業所を目指しているのか」、「(だから)どのような加算を取っていきたいのか」、「そのためにどのような人材育成や設備投資が必要なのか」を伝えることで、次項で取り上げるパーティー(仲間)に共感を生み、新たな目的を創造したり、新しいストーリーを綴っていくしかありません。
この冒険に「攻略本」なんて便利なアイテムはないと思った方がよいということです。

目的達成に必要なパーティーであるか

Q&Aや留意事項通知が発出され、読み込んでいる最中という方も多いと思います。
読み込んでいるのは、経営層ですか、リーダー層ですか、中堅層ですか、一般職層ですか?
施設長ですか、事務長ですか、事務職員ですか、生活相談員ですか、ケアマネですか、介護職員ですか?

これも法人・施設により考え方や方針が異なると思いますが、研修で毎回お伝えしているのは、「経営層やリーダー層だけではなく、中堅層とも同じ目線で取り組めるような機会や情報共有の機会を作りましょう」ということ。

結局、方針などは経営層やリーダー層で決めることになりますが、実行するのは中堅層や一般職層ですから、中堅層や一般職層からすれば、「また新しいことするの(なぜ?)」という気持ちが先行してしまい、取り組みが上手く進まない状況を生みかねません。
であれば、リーダー層と中堅層が一体となって、同じ目線を持って取り組みを推進できる体制を作った方が、結果的にうまく進められることに繋がります(繰り返しお伝えしている通りです)。

また、多様な意見を踏まえて、意思決定できるパーティー(仲間)を作りましょう。
今回の改定内容は一朝一夕で達成できる内容ばかりではありません。
例えば、「生産性向上推進体制加算Ⅰ」であれば、取り組み成果のデータ提出(利用者のQOL等の変化や総業務時間及びに含まれる超過勤務時間の変化など)が求められます。
4月からすぐの算定を目指さなくとも、加算要件で求められる内容を1つずつ潰していき、経営層やリーダー層がCheck(評価)・Action(見直し)をしながらアウトカム(取り組み成果)が出せるよう進めるには、どのようなパーティー(仲間)で挑むかが、結果・成果の良し悪しに直結するといえます。

例えば、上記加算の算定に向けた委員会において、構成メンバーに偏りがないか(リーダー層ばかりで議論が煮詰まってばかり)、特定の職員の発言で全てが決まっていないか(お局による20:80の会議になっている)、議題のPDCAが機能しているか(人材不足を理由に前向きな検討や取り組みが推進されない)などの状況があれば、再度、パーティー(仲間)を組み直した方がよいでしょう。

冒険を進めるにしても、意見が合う者同士でパーティー(仲間)を組めば意思決定などは楽かもしれませんが、ピカチュウ6匹を従えていては、"じめんポケモン"が出てきたら一撃でやられてしまいます。
目的を達成するために必要な考え方・価値観や意思決定の根拠となる知識・技術・経験を持った多職種(多様な職層・職種)をあえて向かい入れ、経営層やリーダー層と共に意思決定し、取り組みを推進させるパーティー(仲間)の方が、結果的に結束力を強め、良いチームになるといえます。

生き返らせる術を持っているか

「オープンワールドをどのように歩くか(=介護報酬改定に適応するための目的を持った意思決定)」「目標達成に必要なパーティーであるか(=意思決定するために必要な人材構成)」という内容で綴ってきました。

最後は、「生き返らせる術を持っているか」です。
ほとんどのRPGでは魔物に倒されても、教会でお祈りしたり、魔法で生き返らせることがあります。
ここでは、計画を立て(Plan)、実行し(Do)、評価した時(Check)に、必ずしも目標や目的が達成されない(達成されていない)状況に直面した際、すぐにゲームオーバーにしていないでしょうか。
途中までの挑戦を評価し、手立てを改める(Action)ことで再度挑戦を認め、パーティー(仲間)が息を吹き返せるよう後押しが出来ているでしょうか。

最初からうまく目標が達成できればよいですが、必ずしもそうとは限りません。
失敗してもやり方を変えて再挑戦できたり、挑戦したことを評価してもらえる組織風土は心理的安全性が高い状態ならではです。

「生産性向上推進体制加算Ⅰ」の例では、生産性向上のアウトカムをデータ提出しなければなりませんが、最初から高い目標設定ではなく、段階的に引き上げていく、という進め方がよいと思いますし、達成・未達成の月が交互に出てくるかもしれません。

目標達成に向けて、導入されている見守り機器等のテクノロジー(見守り機器、インカム等の職員間の連絡調整の迅速化に資するICT機器、介護記録ソフトウェアやスマートフォン等の介護記録の作成の効率化に資するICT機器)について、「"生産性向上を図る"という意識を持った使い方」を浸透させるための研修やOJTの必要性が出てくるかもしれません。
急がば回れで、時間をかけながらも確実に着実にアウトカムを出せるように進めましょう。

ただし体制が整わなかったり、運用がうまく軌道にのらない状況でだらだらと続けていても成果が出るかどうか分からない時は、挑戦する回数や妥協できる目標値などをあらかじめ設定しておくのもよいでしょう。
決して、「ヒト」批判ではなく、「コト」対策で進めてください。

まとめ

令和6年度介護報酬改定の内容を読むにつれ、法人の考え方や方針に委ねられている部分が多いという印象を受けました。
事業経営や人材確保・育成、サービスの質・生産性向上、地域福祉のことなどを常日頃から考えていないと、村人の言葉に頼るような法人がほんと増えてしまうのではないかと危惧します。

改定内容には3年間の猶予期間や「誓約」すれば算定できる内容もありますが、特にBCPであぐらをかいていた法人は、この3年間を有効活用し、意思決定できる組織を作りながら、取り組みを推進してもらいたいですね。

管理人

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