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映画「ミッドナイト・イン・パリ」レビュー

パリにいるかのような美しい音楽と街並みから始まる「ミッドナイト・イン・パリ」(2012年、ウディ・アレン監督)。

主人公のギル(オーウェン・ウィルソン)は、作家の夢をいだきつつも脚本家として生計を立てている。そのギルが婚約者イネズ(レイチェル・マクアダムス)とその両親とともに訪れたパリで体験する、不思議でステキな旅の物語。旅に出たいな~パリに行ってみたいな~、誰しもそんなうっとり気分に浸れる映画なのだが、特におすすめなのは芸術(美術や文学)に造詣の深い方だ。

というのも、出てくる出てくる芸術界の大御所たち。彼らを知っているかいないかでテンションの上がり方が格段に違う。彼らを知らない方は、この映画が彼らの作品に触れるきっかけになったらいいと思う。

夜のパリをほろ酔いで散歩しているギルは、いつの間にかパリの小道に迷い込んでしまう。途方に暮れているとそこへ旧型のプジョーが。促されるままに車に乗り込むと、たどり着いたのはなんとジャン・コクトー主催のパーティ。

1920年代にタイムスリップしていたのだ。そこで出会ったのは、フィッツジェラルド夫妻。フィッツジェラルドの作品自体はわたしも読んだことがないのだが、村上春樹の小説に出てくるから名前だけは知っている。映画の中での彼は、毒舌できまぐれな妻デルタに振り回されながらもなかなかの好青年だったので、代表作『グレート・ギャツビー』を今度読んでみようと思う。

興奮冷めやらぬギルは、翌日婚約者イネズを連れ立って昨夜の場所でプジョーを待つ。しかし歩き疲れ待ち疲れたイネズは、一人先にタクシーで帰ってしまう。すると、文豪ヘミングウェイを乗せたプジョーがギルの前に現れ…。

『老人と海』が有名なヘミングウェイ、こちらもなかなかイケメンではないか。過酷な戦争経験も手伝ってか人格にも骨がある。こんな人が書いた物語だったのか~と、『老人と海』を回想してみる私。名作だからって理由で半ば義務感から読んだので当時はそれなりに感銘を受けた気もするが、いまいち内容を思い出せず。残念。

芸術家の集うサロンで、ピカソやピカソの愛人アドリアナとも交流を深めていくギル。当初の戸惑いもそこそこにすでにこの不思議な状況に慣れ、楽しんじゃってる、どころか婚約者がいながらちゃっかりアドリアナに惹かれていくギル。そんなアドリアナと馬車に乗り、今度はアドリアナの憧れる1850年代のパリへタイムスリップする。

ポスター画家のロートレックや、バレリーナの絵で有名なドガ等と交流する二人。この人たちって作風全然違うけど親交あったんだ、しかもロートレックは身体障がい者だったのか。知らなかったな。で、一時代を築き上げてきた彼らだが、彼らは彼らでルネサンス期に憧れていると言う。

2010年から来たギルは黄金期と言われる1920年代に、1920年代に生きるアドリアナはベル・エポック期の1850年代に、1850年代のロートレックやドガはルネサンス期に…いつの時代も過去に拠り所を求めてしまうないものねだりの人々。パリだものね、いつの時代もステキよね。出てくるクラシックカーも人々のレトロな装いもすごくロマンチックでかわいい。大好きな1850年代に残るというアドリアナにギルは言う。

「現在って不満なんだ。それが現実だから。」

ギルは、現在に戻りアメリカで暮らすことを望む婚約者イネズと別れ、ずっと住みたかったパリに残ることにする。

逃げたくなる時ってある。ここではない場所へ。今ではない時代へ。同時に現在今置かれた状況がもまた不変でない、ことにも気づく私。

無常ってやつである。そう思って現実をやり過ごすことにしよう。

編集:円

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