水池亘

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    毎月4日・14日・24日の前後に4コママンガの紹介や感想を投稿します。メンバーは、すいーとポテト、水池亘、量産型砂ネズミの三名です。/2024年3月以前の記事は Tumblr の旧ブログをご覧ください→ https://4komasusume.tumblr.com/

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十年経ったら人のほうが ――連載「棋士、AI、その他の話」第1回

「十年くらいしたら人間のほうが強いんじゃないのかなと思います」  開幕前の記者会見で菅井竜也五段(当時)はそう語った。2014年、第3回電王戦。プロ将棋棋士とコンピュータソフトとの戦いは5対5の団体戦形式で行われた。前年の第2回では、大方の予想とは逆にプロ棋士側が敗北を喫した。特に最終戦、時のA級トップ棋士・三浦弘行八段が最強ソフト・GPS将棋に完敗した将棋は見る者に強い衝撃を与えた。三浦八段に明確なミスは一手もなかった。にもかかわらず敗れたということはつまり、純粋な将棋の棋

    • ドラフト会議を見るにあたって――連載「棋士、AI、その他の話」第31回

       今年もABEMAトーナメントが始まる。初回放送はドラフト会議。ここが一番の見所と思うファンも少なくないだろう。本稿ではこのドラフト会議を見るにあたって、知っておくとより楽しめるポイントについて書いていく。 ドラフト会議とは  ABEMAトーナメントは棋士が3人1組でチームを組み戦う団体戦だ。そのチーム編成はドラフト制により行われる。順位戦クラス上位から順にリーダーが決定され、各リーダーが仲間として取りたい棋士を指名していく。指名がバッティングしたらくじ引きで選ぶ。プロ野

      • たとえ推しと知り合ったとしても――むぐら『escape into the light』

         推しと知り合いになったら、あなたはどうしますか?  むぐら『escape into the light』はとある少女・つむぎが、大ファンだった匿名ネット歌手・miraiの正体・みきと学校で知り合うところから始まります。何とクラスメイトだったのですね。ものすごい偶然ですが、喜ばしくはありません。なぜなら、その「推しの中の人」は人を見下し寄せ付けない最悪な性格だったからです。  面白いのは、そこでつむぎがあまりショックを受けないところ。  彼女は推しそのものを目の前にして、「

        • 時にはハンデが必要だ――連載「棋士、AI、その他の話」第31回

           「名人に香を引く」という言葉がある。  時は1932年、13歳の升田幸三少年は一念発起し、家を出る。「日本一の将棋指し」になるためだ。この際、家に墨で書き残したのが、「この幸三、名人に香車を引いて勝ったら大阪に行く」という文言だった。「勝ったら」は「勝つため」の誤りであり、つまりは将棋で天辺を取るという宣言なのだった。  この言葉は、後年現実のものとなる。  香を引くとは、将棋用語で「香車を1枚抜いた状態で戦う」ことを意味する。要はハンデ戦だ。強い方の駒を減らし、棋力のバ

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        十年経ったら人のほうが ――連載「棋士、AI、その他の話」第1回

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          棋士と棋士が結婚する――連載「棋士、AI、その他の話」第30回

           野月浩貴八段と渡部愛女流三段が結婚を発表した。二人は事実上の師弟関係として昔から有名だった。2010年代後半、渡部は棋戦優勝こそあったものの、タイトル挑戦には手が届かない日々が続いていた。このまま平凡な女流棋士として終わるのか。悩んだ末に、渡部はある同郷の棋士にメールを送った。タイトルを獲得するために、どうか将棋を教えてほしい、と。やがて届いた返信にはこう書かれていた。「将棋の何を教えて欲しいのですか」。それが野月と渡部の、棋士になってからのファーストコンタクトだった。  

          棋士と棋士が結婚する――連載「棋士、AI、その他の話」第30回

          居飛車党が飛車を振る日――連載「棋士、AI、その他の話」第29回

           その日、豊島将之は初手で角道を開けた。居飛車党の最上位者である豊島は基本的にまず飛車先の歩を突く。そうしなかったということは何か用意の作戦がある。はたしてそれはすぐ明らかになった。3手目、豊島は飛車を掴み、横に振った。三間飛車だ。  居飛車と振り飛車の間には深い溝が横たわっている。玉をあまり囲わず、常に真剣で切り結ぶような緊張感のある相居飛車戦に対し、振り飛車戦は玉をある程度しっかり囲ってから戦いを始める。そのため一つのミスが致命傷になりにくく、劣勢になっても粘りが効く。

          居飛車党が飛車を振る日――連載「棋士、AI、その他の話」第29回

          アナログゲームマガジン大賞2023名局賞 2023年10月31日新人王戦決勝三番勝負第3局 上野裕寿四段-藤本渚四段

          「技術面では三段リーグで一番強いと思っていた」。上野裕寿はプロ入り決定後の会見でそう話した。大言壮語ではない。彼の三段リーグでの勝率は群を抜いていて、昇段に4年半かかったのはたまたまでしかなかった。20歳という年齢でのプロ入りは決して早いものではないが、その実力は既にプロ中位以上にあり、いずれトップ棋士になれる器として将来を期待されている。  上野のデビュー戦は新人王戦の決勝第1局だった。新人王戦は三段リーグの成績上位者にも出場資格があり、上野はそれに該当し参戦、トーナメント

          アナログゲームマガジン大賞2023名局賞 2023年10月31日新人王戦決勝三番勝負第3局 上野裕寿四段-藤本渚四段

          藤本渚のスケールは――連載「棋士、AI、その他の話」第28回

           2023年1月31日棋王戦予選、大石直嗣七段-藤本渚四段。先手番となった藤本は相懸かりを採用する。プロ入り時のインタビューで、彼はほとんどこの戦法しか指さないと語っている。ただ現在は後手番での雁木の採用が多い。  大石はB級2組に在籍する優秀な棋士だ。対して藤本はデビューから3ヶ月にも満たない新人である。一日の長があるのは大石のほうで、中盤の捻り合いの中優位に立った。角と香を駆使した的確な端攻め。それをもろに食らった藤本は、無視して攻撃に出た。桂交換を要求し、大石はそれに応

          藤本渚のスケールは――連載「棋士、AI、その他の話」第28回

          内容では勝っていた――連載「棋士、AI、その他の話」第27回

           永瀬拓矢の名局、になるはずだった。  2023年10月11日王座戦五番勝負第4局、永瀬拓矢王座(当時)-藤井聡太竜王・名人(当時)において後手の藤井が勝利し、通算成績を3勝1敗として王座を奪取、前人未踏の八冠を達成したことは周知のことである。特にこの対局、最終盤に大逆転が起こったことは有名であろう。永瀬は最終盤に至るまでの大半の時間を優勢に進めていた。後は着地を決めるだけ、というところで永瀬は信じがたいミスを犯し、たった一手で勝勢から敗勢に追い込まれた。そして実は第3局にお

          内容では勝っていた――連載「棋士、AI、その他の話」第27回

          番勝負に流れはあるのか?――連載「棋士、AI、その他の話」第26回

           誰も勝ちを疑っていなかった。2023年将棋ABEMAトーナメント準決勝、チーム藤井対チーム稲葉。メンバー3人が3戦し、計9戦のうち先に5勝すれば勝利のこの戦い、チーム藤井は開幕4連勝を決めて王手をかけた。あと5戦のうち1勝すれば勝利になる。単純に勝敗五分五分としても、負ける確率は32分の1しかない。しかも今大会無敗を誇るリーダー藤井聡太が1戦を残している。この状況で、チーム藤井の勝ちが決まったと思わない方が無理がある。実際、チーム稲葉のメンバーですら後のインタビューで負けを

          番勝負に流れはあるのか?――連載「棋士、AI、その他の話」第26回

          熱戦になれ、豊島将之と藤井聡太――連載「棋士、AI、その他の話」第25回

           藤井聡太七冠は豊島将之九段の将棋を愛している。そう彼が公の場で言ったわけではないが、将棋ファンの間では、それは共通認識になっている。何故か。彼が「最近気になった将棋は?」「昨年のベスト対局は?」といった質問にことごとく豊島九段のものを挙げているからだ。だから少なくとも、七冠が豊島の将棋に強く注目していることは間違いない。  かつて豊島は、藤井の天敵と呼ばれていた。初対局から6連続勝利したのだ、無理もない。だがその後は5勝22敗と大きく水をあけられている。これは藤井が豊島の将

          熱戦になれ、豊島将之と藤井聡太――連載「棋士、AI、その他の話」第25回

          伊藤匠の竜王戦ドリーム――連載「棋士、AI、その他の話」第24回

           伊藤匠、20歳。2020年10月1日付でプロ四段となる。当時、彼は棋界最年少だった。基本的にプロ棋士はプロ入りの時期が若ければ若いほど期待値が高い。当然伊藤も有望な若手として将来を渇望されている。  伊藤が最初に大きく名を売ったのは、ABEMAトーナメントだっただろう。2021年3月27日放送のドラフト会議で、彼は藤井聡太から指名を受けた。それは藤井の「自分と同年代の棋士を取る」という方針によるものだったが、伊藤のフィッシャールールでの強さが評判になっていたこともまた確かで

          伊藤匠の竜王戦ドリーム――連載「棋士、AI、その他の話」第24回

          将棋の魔力、逆転の世界――連載「棋士、AI、その他の話」第23回

           2023年6月20日王座戦挑戦者決定トーナメント、藤井聡太七冠-村田顕弘六段。全冠制覇のかかる最強・藤井に対し村田が用いた作戦は「村田システム」だった。独自に編み出した戦法で、序盤に角道を開けない戦い方に特徴がある。 これに戸惑ったか藤井は上手く対応できず、作戦負けに陥った。反対に村田の手は冴え渡る。完璧な指し回しで優位に立ち、いつしかAI勝率は80%を超えた。勝勢だ。あの藤井聡太相手に完勝しようとしている。だが、皆知っている。藤井はここからが怖いと。  持ち時間を使い切っ

          将棋の魔力、逆転の世界――連載「棋士、AI、その他の話」第23回

          佐々木大地の夏が始まる。 ――連載「棋士、AI、その他の話」第22回

           2023年4月24日棋聖戦挑戦者決定戦、永瀬拓矢王座-佐々木大地七段。この大一番に、佐々木は秘策を用意していた。飛車先の歩が交換された直後、彼は近くの金を掴み、一マス上に置く。何だこの手は。現代ではおそよお目にかかれない一手だ。だが理屈はある。AIが評価する囲いにスムーズに持っていくための工夫なのだ。つまりこれは現代将棋だからこそ現れた一手とも言える。さしもの永瀬も、手が止まった。  これがきっかけとなったか、駒組みの段階で佐々木はリードを奪った。それをじわじわと広げていく

          佐々木大地の夏が始まる。 ――連載「棋士、AI、その他の話」第22回

          藤井聡太と戦う振り飛車 ――連載「棋士、AI、その他の話」第21回

           圧殺と言って良かった。藤井聡太は何もできなかった。相手は振り飛車、それも絶滅危惧種の三間飛車穴熊。対して相穴熊に構えた藤井はその時点で優位に立っているはずだった。実際、AIも55%の勝率を示している。問題は、藤井に対振り飛車戦の経験が少ないこと。そして相手が振り飛車党唯一のA級トップ棋士・菅井竜也であること。  2023年4月23日叡王戦五番勝負第二局。中盤の折衝の中、菅井は角を引く。それが藤井の思考を狂わせた。読み抜けていた一手を見た藤井は自信を失い、長考の末に無理気味の

          藤井聡太と戦う振り飛車 ――連載「棋士、AI、その他の話」第21回

          誰とでも互角の男――連載「棋士、AI、その他の話」第20回

           藤井聡太といえど手痛い逆転負けを食らったことは何度もあるが、その中でも有名なものの一つが2017年の叡王戦決勝トーナメントだろう。日は12月23日。クリスマス直前だった。  戦いは序盤早々に藤井がリードを奪った。この年にデビューして29連勝。一躍国民的スターとなった藤井はもちろん棋力も十二分に高い。四段の中で一名しか勝ち上がれない予選トーナメントを制覇したことからも、それは自明だ。飛び抜けて勢いのある若手代表格、それが当時の藤井の立ち位置だった。  藤井は攻めを重ねる。形勢

          誰とでも互角の男――連載「棋士、AI、その他の話」第20回