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【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#131

24 維新の終わり(2)

 馨たち一家は、ロンドンでの初の公式行事として公使館主催の歓迎会を兼ねるパーティーに出席した。
イギリス公使の上野景範・いく夫妻のエスコートを得て、パーティー会場にでた馨と武子と末子は、久々の日本にほっと安心していた。特に武子は、いくの存在に同じ女性として安らぎを感じていた。末子は武子のそばにいて、愛らしい笑顔とおしゃまな会話で、周りの大人達に笑いを振りまいていた。一方馨の周りには留学生たちが輪を作っていた。
「はじめまして。中上川彦次郎といいます」
「はじめまして。僕は小泉信吉です」
馨は二人の若者から自己紹介を受けていた。
「僕とこの中上川は福澤先生の門下生です。先生から井上さんがロンドンにいらっしゃると、文をいただきまして」
小泉が一息つこうとすると、中上川が続けて言った。
「ぜひともお近づきになりたいと思いました。僕らもポリティクスだけでなくエコノミーも勉強しています。日本で実際に担っていらした方と学べるとは。このような機会を逃したくないと思いまして」
「そういえば、福澤さんとはそういう話をしたの。わしからもよろしく頼む」
「そういえば、小笠原君。こっちに来ないか」
小泉が背後に居た小笠原に声をかけた。
「あ、ありがとうございます。小笠原長生と申します。お見知りおきください」
「そねいにかしこまらんでもええぞ。わしも書生みたいなものじゃ」
「ありがとうございます」
「そうじゃ。皆で定期的に勉強会でもせんか。我が家にて食事会もやったらええ」
「是非よろしくお願いします。今度の火曜日でもいかがですか」
「わしは大丈夫じゃ」
「小泉くんと小笠原くんは」
「大丈夫です」
「僕もぜひ」
 小笠原と小泉も賛同した。こうして馨は若い同士を得ることになった。

 馨を囲む人が減ってきた頃、少年がやってきた。
「父上」
「おお勝之助じゃ。どうだ、達者にやっておるか」
「はい、元気にやってます」
「そりゃ何よりじゃ。勉学も体が基本だしの」
「ママと父上がしばらくこちらにおられるのも心強いです」
「そうじゃ。ママと末子には挨拶をしたか」
「いえ、まだです」
「あそこに居るぞ」
 馨は勝之助の手を引いて武子のもとに行った。
「武さん、勝之助も来ちょったよ」
「ママ、お久しぶりです」
 勝之助は初めて見る、武子の洋装に少し驚いていた。
「勝之助さん、ずいぶん大きくなりましたね」
 武子は勝之助の成長ぶりを微笑んでみていた。
「はい、元気にやってます。勉学も周りに負けないよう励んでます」
「それは何よりです。あら、お末はどこかしら」
「ははは、武さんの影に隠れちょるよ」
 そう言って馨は武子のドレスに隠れている、末子の手を取って、勝之助と対面をさせた。
「お末、勝之助じゃ。まだあったことはなかろう」
 末子は勝之助を見上げて、微笑みかけた。
「末子です。はじめまして。思った通りの方でうれしいです」
 その笑顔に勝之助のほうが、ドギマギしてしまったようで
「はじめまして、すえちゃん。これから仲良くしていこうね」
と言うと、それ以上言葉が出なくなっていた。
その二人を見て、馨と武子もにこやかに笑っていた。

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