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【小説】奔波の先に~井上馨と伊藤博文~#155

27 鹿鳴館(2)

 実は、板垣退助と後藤象二郎を、洋行を餌に懐柔しようという意見が、馨の周りからでていた。
 まずは板垣に、政府からは伊藤が、憲法研究で欧州に視察に行っているのだから、民間でも行くべきではないかと言う話を、伊藤博文からさせた。その話を聞いた板垣は、自分も欧州に行き実地の調査をしたいと、思いだしていた。その気持を出発前の博文に、伝えていたので、馨にも伝えられていた。
 また、板垣は後藤にも洋行の希望を話していて、費用について相談していた。橋渡し役を引き受けた福岡孝弟は、後藤象二郎と馨に話し合いの場を設けていた。

「お久しぶりじゃの。後藤さん。まさかとは思ったが、福岡さん宅でお会いできるとは」
「そうであった、井上さん。後藤さんが洋行したいとの話も、しておったのだけれど」
 福岡が話を振ってきた。
「洋行か。わしが行ったのはもう4年も前のことじゃの」
 馨が答えていった。
「井上さんの洋行の費用はどのように」
 後藤も尋ねてきていた。
「わしのは公用の御用で行ったので、基本は俸給じゃ。あとは江華島の事件の報奨金も使ったかの」
「なるほど、結構なかかりになりますな」
「支援者を募ったらどうじゃ。お味方になってくださる方もおろうが」
 馨はそう言って、後藤の様子を見てから言った。
「なんなら、わしも一肌脱いでもええんじゃが」
「そうなると、板垣が金の出所を気にした時の説明が」
「たとえば、蜂須賀公とかおられるではないですか」
 福岡も考えを与えることを言っていた。
「それならば、説明しやすかもしれん」
「話はまとまったの。後藤さんと板垣さんで洋行できるよう、尽力させてもらいます」

 後日、福岡孝弟が確認に来た。
「井上さん、費用の件、目度はつくのですか」
「とりあえず、後藤の洋行じゃ。三菱にでも話をしようと思っちょる」
「ただ、板垣さんの事件で、予定が狂いはしませんか」
「大丈夫じゃろう。逆に傷を癒やすためにも、洋行を勧めたほうがええかもしれん」
「そういうものですか」

 しかし、三菱からの資金調達はうまく行かなかった。それならばと、松方正義や山縣などに相談し、三井の三野村利助に、陸軍の御用金取扱契約の延長を条件として、同意を得ることができた。これにより、後藤象二郎と板垣退助は欧州にでていく事ができた。

 この時、自由党の党員から資金調達について、疑義も出たようであったが、後藤象二郎がうまく話をしていたようだった。板垣には後藤は本当のところを話していないらしいが、どこまで知っているのかわからないままだった。
 そうして、自由党の首脳が不在となったことで、運動は少し下火になった。他の政党においては、過激になっていた運動も続かず、政党の勢い自体がなくなっていった。目論見通り、後藤と板垣も欧州視察により、少し考え方も変わったようだった。

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