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#17 日本人の私。私の黒髪。


私は髪を染めない。

白髪染めが女性の身だしなみであるならば、私はエチケット失格かもしれない。

いやぁ、書いた後で、心にも思ってないことを書いてしまった、と気づく(笑)

日本で私は、自分の硬くてボリュームのある髪を少しでも軽やかに見せるためにヘアダイを使っていた。明るめといっても、栗色よりはダークな、『控えめ』なブラウンで染めたことは何度かあったと思う。

だが、イギリス人である夫と出会い、黒髪を染める必要はないと言われたし、

結婚式の写真の私の髪は真っ黒だから、やはりイギリスで一年過ごした後の自分は黒髪に対する見方が変わったのだとわかる。

それは、どこを向いてもみんなが黒い髪をした日本で、個性を持つために染めるのと、真逆の経験だった。色んな髪の色や髪質の人と出会い、この黒髪こそ私の顔かたちに合うようにデザインされていることを、理解できたと言える。


そんな私がイギリスに移住した20数年前は、美容院に行ってもなかなか納得できるカットをしてくれる美容師さんに出会えなかった。髪が伸びるたびに、次はどこの美容院に行ったらいいのかと憂鬱になったものだ。

もっともこんな田舎町でなく、ロンドンまで行くなら別だ。
何しろ人種が多いから、アジア人の黒髪直毛を切ることに慣れているサロンはある。割高ではあるが、日本人スタッフだけの美容院というのもある。

しかもロンドンといえばヴィダルサスーン。サスーンといえばロンドン・・・いや若い人はもう知らないか(笑)
あの象徴的なボブを見ると、サスーン、イギリス生まれでもできたやんか・・・と思わずにいられない。

だがここは田舎町。ここにはサスーンの ”サ” の字も着陸しなかったんだ。(後にそれは言い過ぎだったと気づくのだが)

私はとにかく自分の硬くて広がる髪がコンプレックスだったので、美容師さんに見つめられると、こちらから先に謝ってしまっていた。

「やりにくい髪でしょう。ごめんなさいね」って。あほか、私?

『相手はお金をもらって仕事をうけるプロだ。報酬を支払いながら、なんで謝る必要があったか・・』今でこそ、そう思う。そんな謙虚すぎた昔の自分が悔しい。

しかも、当時は「そんなことない」と言ってくれる美容師には出会えず、思い通りにできないのは、遠回しに私の髪のせいにされた。


今でも忘れられないのは、ある美容室で、カットし終わって床に落ちた私の髪を見て、「scary (怖~い) !」とはしゃいだ美容師のことだ。
確かに、ツンツンに暴れまくる、さっきまで私の一部だったものがかたまりで床にある姿は、ちょっとグロい。だが仮にも私はお客さまだ。友達ではない。

自己肯定感、なんて言葉を意識もしなかった頃だ。サービスをしてくれる相手からそんなことを言われて帰ってくるのだ。自己肯定感なんてもん、持てるわけないのだ。


別の美容院ではオーナー夫婦の息子である若い美容師が、私の髪を快く切ってくれた。ただ、その二代目にとっても、苦労して私の髪と格闘するので、初めから終わりまで、三時間近くかかる。一生懸命な二代目は気づいてなかったかもしれないが、私はオーナー夫妻の、『うちの息子にどんだけ時間かけさせるんだ』という目線に耐えらず、いつしか行かなくなった。

いや、これも今から思えば恐縮してしまった自分がそう思い込んだのかもしれない。自己肯定感が高かったら、そんなこと気にもならなかったはずだ。


そんな私のこの黒歴史を塗り替えてくれたのはこの町で最もカリスマ的美容室である某サロンだった。
あまりにもいい経験がなかったので、とうとう『金に糸目はつけぬ』状態で臨んだ、カリスマ美容師によるカット。

夫婦で経営するそのサロンのご主人が私の担当になった。私の髪を梳かしながら、「素晴らしい!ゴージャスだ!最高のボリューム!」と言葉の限り、ほめてくれた。

私が『虐げられてきた』(と思ってきた)この髪が、初めて日の目を見た時だった ( ;∀;)


言葉って、本当にたいせつ。

同じものを見ても、表現する言葉をポジティブに選んだだけで、印象がまったく違ったものになることはよくある。

言葉は誰かを生かすことも、誰かの心を殺すこともできる。


冒頭で、『私は髪を染めない』と書いた。ここ数年、私と年齢の近い女性の間で、グレイヘアでいることが、選択として見直されているようだ。これまでは身だしなみを怠っている印象だったかもしれないが、そうじゃない、カッコいいのだと気づく人が出てきた。

自分の母が、ずっと髪をきれいに染めていたのに慣れている夫は、私が最初白髪のままでいくと言った時、とても不思議そうだった。でも、生活全般においてケミカルを使いたくない私を見てきて、今は積極的に賛成している。


日本人で生まれた自分に黒髪が一緒にデザインされたものなら、

一本一本グレイに変わっていく髪の色は、歳を重ねる自分のためにデザインされていること。

きっと神様の目にはこれが一番似合っているのだと思うから

私はこの『変化していく』黒髪も大事にしていきたいのだ。


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